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他の設計にも活用できる、ジェットパックに最適なコネクタの選び方

映画を見ながら「これは自分にもできるかな?」と考えたことはありませんか。Richard Browningは映画アイアンマンのTony Starkを見ながらまさに同じことを考え、フライトスーツの製作を決心しました。

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図1: Daedalusフライトスーツで飛行するRichard Browning

これまでにも個人飛行の実験は行われています。1965年の映画サンダーボール作戦では、James Bondがジェットパックを使用して飛行しました。Bellで開発されたロケットベルトというジェットパックは、戦場における兵士の機動性を確保するための米軍プログラムの成果物です。しかし、過酸化水素燃料5ガロンを使用した飛行時間はわずか21秒で、米軍はその研究費を別の分野で使用することに決定しました。

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図2: ロケットベルト装着したJames Bond (Sean Connery、1965年)

(画像: http://jamesbond.wikia.com)

最近では、個人飛行の分野に革命が起こりつつあります。「personal jet pack (個人用ジェットパック)」で検索すると、個人用飛行装置を販売する企業が数社見つかります。Richardはそのような企業とは異なるアプローチを取り、個人用飛行装置を自作することにしました。

Richardをサポートしたのは、エンジン・燃料・制御・電子工学の分野における50年の研究開発の経験です。現代のミニチュアジェットエンジンは、豆の缶詰より少し大きい程度の物体に対して、優れた推進力を発揮します(しかも過酸化水素よりずっと安全な燃料を使用)。Raspberry Piのような小さな機器に備わった計算能力を見る限り、この新世代のエンジンを制御することはそれほど難しいことではないはずです。1965年にはSFの世界だと思われていたことが、現実になりつつあるのです。

しかし、手始めに何をすればいいのでしょうか。

最近では、エンジンや制御に関して「何から始めるか」と問えば、おおよその答えは決まっています。むしろ、どのようにしてそれらを1つの機能的なデバイスにまとめるかが、プロジェクトの過程でも困難を極める部分でしょう。

エンジンと燃料源は連結させる必要があります。HMI (ヒューマンマシンインターフェース)、ディスプレイ、及びセンサーデバイスの間の連携も必要です。そして、そのすべてが全体を制御する電子頭脳の中枢にリンクされていなければなりません。

すでにお気付きかもしれませんが、このような複雑なシステムには、他の部品も詰め込まれます。それはRichardを空中にとどめるためのエンジンほど面白いものではありませんが、劣ることなく必要不可欠な部品です。

使用可能なDaedalusスーツを製作するためには、どのように製品を選べばいいのでしょうか。ここでは、Richardが必要とするコネクタ及びケーブルの一部に焦点を当て、RSオンラインを利用して部品の選択する方法について説明します。幅広い種類・用途・機能のケーブル及びコネクタが存在するため、混乱を極めるほどの選択肢があります。Daedalusプロジェクトは一般的とは言えませんが、製品を選ぶプロセスは、より日常に近い状況にも適用できます。

タスクを明確にする

まず、その製品が担うタスクを明確にします。コネクタ及びケーブルでは、必要なコンダクタの数、使用する電流と電圧、シールドの有無について検討します。ほとんどの場合、これらの項目を明らかにすることで製品全体サイズが決定します。

次に、その製品がどのような条件下で動作しなければならないかを検討します。特に頻繁に挙がるのが、製品は雨ざらしになるのか、防水仕様は必要なのか、という質問です。それ以外にも振動や衝撃、通常の水に加えて化学物質への暴露についても考慮する必要があります。これらを組み合わせながら検討していくと、コネクタ又はケーブルに求められる物理的設計及び材質が明確になります。

最後に、製品の選択に影響を及ぼす特別な要件はないか確認する必要があります。製品は頻繁に取り扱われるのか、それとも「設置後は放置」される類の製品か。軽量化は必要か。使いやすいように色分けは必要か。使用状況を考慮すればこれらの質問(及びそれ以外の多種多様な質問)には明確な答えが出ますが、予想外の状況も想定しておく価値はあります。

特殊用途のコネクタを選ぶ

ここで、次のような状況を仮定してみましょう。ある顧客が、船の甲板で使用するコネクタを探しています。使用するのは5V/0.5Aの通電が可能な導体3つを含むシールドなし回路です。標準的で、できれば小さなコネクタが理想的です。コネクタは造船時に取り付けられ、故障などがない限り、大規模な点検実施時以外の取り外しは予定されていません。ただし、塩水や直射日光(紫外線や紫外線放射への暴露)により海上の環境は非常に厳しくなっています。

この例では、このような環境に耐え得る防水コネクタが必要です。コネクタのシールドは必要ないため、プラスチックシェルを候補として検討できます。ただ、一部のプラスチックは紫外線放射の影響を受けるため、金属製の方が適切かもしれません。ところが、特にアルミニウムなど金属の多くは塩水により破壊されます。よって、耐食性のステンレススチールが候補に挙がります。ステンレススチールは硬くて扱いにくく、その結果高額になりがちです。そこで簡単に調査すると、ニッケルアルミニウム青銅(NAB)合金が見つかりました。

ニッケルアルミニウム青銅は、金色をした高密度の金属です。紫外線放射や塩水による腐食への耐性に優れています。また、銅部品が採用されているため、藻、ムラサキガイ、地衣類など海洋生物の定着を防ぎます。高密度のため重いのですが、海上での使用に大きな問題はありません。

大体のイメージはつかめたでしょうか。製品を選ぶということは、妥協しつつ優先順位を付け、本当に重要な要素を明確にすることです。この例では、軽量化よりも耐食性が重要なため、NABが適切な選択になります。

Daedalusスーツ用のコネクタを選ぶ

Daedalusスーツへの取り組みを通してRichardは多くの課題に対峙し、支援を求めてきました。Richardの両腕には、それぞれ2機のエンジンと制御装置が実装されています。人差し指の下にはエンジンスロットルを制御するためのトリガーがあります。シンプルなオン/オフスイッチではなくトリガーを採用することで、思い通りに推進力を制御できます。その他の制御装置も含め、ハンドグリップはバックパックに格納された電子装置にそれぞれ連携されていなければなりません。各接続に5つの導体が必要で、導体は低電圧の信号電流のみ処理します。

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図3: Daedalusスーツを装着したRichard。右手人差し指にスロットルスイッチ、エンジン上部に各種ワイヤーと燃料ラインが確認できる。

Daedalusスーツ用には多くの要件があります。ケーブルはフライトスーツの袖から手元まで通すため、製品寿命が終わるまで柔軟性を維持しなければなりません。ハンドグリップに到達したケーブルには、必要に応じていつでも取り外せるコネクタを取り付けます。Richardの最終目標は簡単に着脱できるフライトスーツを完成させることですが、現在の設計では着脱するたびにコネクタを取り外す必要があります。

そのため、コネクタには堅牢で長持ちすることが求められますが、一方で防水性は必ずしも重要な要件ではありません。コネクタが簡単に着脱できれば便利ですが、スーツ使用中も絶対に外れないよう振動に対する耐性も備えていなければなりません。最後に、DaedalusスーツにはRichardとスーツそのものを持ち上げるために十分な推進力が必要で、なるべく軽い部品が理想的です。

ケーブルの後にコネクタを選ぶ

経験から言うと、ケーブルを選んでからケーブルに合うコネクタを選ぶようにした方が、その逆よりも簡単です。その点に留意して柔軟性に優れたケーブルを探した結果、Alpha WireのXTRA-GUARD FLEXというケーブルシリーズを見つけました。

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図4: Alpha Wire XTRA-GUARD FLEX

このケーブルは、継続的に折り曲げられる状態にさらされる非常に動的な用途での使用を想定して設計されています。ここでは5芯、シールド有ケーブル(408-895)を選択しました。600万回の屈曲サイクル試験が実施されているケーブルで、より芯は0.14mm2 (26AWG)、ケーブル直径はわずか5.36mmです。シールド材はアルミニウム/ポリエステルホイルで、重量も最小限に抑えられています。

ケーブルを選んだら、次にコネクタを探します。Richardが現在使用しているのは、ネジ連結式DINコネクタです。電気的視点からは全く問題のない選択ですが、Richardはかなり大きくて重たいと感じていました。また、ネジ連結式については「簡単着脱」と評せるものではありません。しかも、標準的な業務用グレードのコネクタで、繰り返し着脱するためには設計されていません。これを置き換えるには、より堅牢な設計が必要です。

特殊用途

長年、この種類の特殊用途では軍用円形コネクタが使用されてきました。幅広い種類の規格に準じて設計され、堅牢性と機能性が重視されています。多くの場合、航空宇宙分野での使用に合わせて軽量にするためアルミニウム合金を使用し、ロボット工学から自動車産業まで幅広い業界で採用されています。

ここでは、まずMIL-DTL-26482規格に準じて製造されたコネクタを中心に調査しました。これはバヨネット固定型コネクタで、現在使用しているDINコネクタに比べて「簡単着脱」できます。ステンレススチールなど特殊な材質で製造されたものも入手可能ですが、大部分はアルミニウム合金製で、標準的な設計のため幅広いメーカーから入手できるというメリットがあります。オプションには、Souriau (687-6645)、Glenair (190-156)、Amphenol (540-4902)などがあります。

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図5: Esterline SouriauのMIL-DTL 26482コネクタ

さらに詳しく調べると、このコネクタの5極バリアントはシェルサイズ14に取り付け可能で、全径約30mmになることが分かりました。これでは大き過ぎると判断し、さらに調査を進めました。

すると産業セクターに、SwissのメーカーであるLEMOが考案したプッシュプルコネクタが見つかりました。使用中の安全を確保できるコンパクトなラッチ設計を採用していますが、着脱が非常に簡単です。この特徴によりコネクタ全体がスリム化され、0Bシリーズのプラグは直径10mm未満(433-2351)となっています。このコネクタは金メッキのねじ切り加工のコンタクトを使用しています。繰り返しの使用を前提とし、5,000回のかん合サイクルを製品寿命としています。

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図6: LEMOプッシュプルコネクタBシリーズ

LEMO Bシリーズは、Daedalusスーツに最適なコネクタのように思えました。スリムで寿命も長く、着脱も素早くできます。ただ1つだけ問題がありました。通常の場合、シェルはクロムメッキ黄銅製で軽くはありませんでした。

この事実から候補から外れる可能性がありましたが、LEMOは既に対策を講じており、F1市場の経験からFシリーズを開発していました。Fシリーズは、プッシュプルのBシリーズと軍用円形コネクタの機能を組み合わせています。FシリーズはBシリーズと同じ小さなねじ切り加工のコンタクトを使用していますが、スリムで短いアルミニウム合金製コネクタに格納し、重量を最小限に抑制することに成功していました。

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図7: LEMO軽量プッシュプルコネクタFシリーズ

0Fコネクタは直径わずか12mmで、バックシェルは使用しておらず、熱収縮成形ブーツでケーブルを固定します。

熱収縮

熱収縮材料は現代の高分子技術がもたらした奇跡であり、熱収縮成形ブーツは従来のケーブル固定方法の優れた代替手段です。Richardの場合、0Fコネクタの後部分は約9mm、ケーブルの直径は5mm強になるため、フライトスーツの袖に簡単にフィットするHellermannTyton (829-0153)製品を選択しました。かん合した状態のコネクタペアは直径12mm未満、熱収縮ブーツを含めた長さは80mm足らずです。

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図8: コネクタペアの展開図と完成図。

部品は、左端及び右端がHellermannTyton熱収縮ブーツ(401-04024)、

中央部がLEMOコネクタFGN.0F.305.XLC及びPHN.0F.305.XLM。

製品を選ぶということは、要件を明確にし、最も困難又は重要な要件に集中することで、最適な妥協案を実現するコネクタを探すことです。今回説明した例は、それを完璧に表しています。複雑なプロセスのように見えますが、重要な要件が明確で、いくらかの常識とRSオンラインがあれば、誰にでも用途に合う最適なソリューションを見つけることができます。

Richard Browningへのインタビュー

イギリス、ソールズベリー地方にある Richardの自宅にて、開発裏話をやGravity社の目指す方向性などを伺いました。下記のインタビュー記事をご覧ください。

  1. いつHPTシステムを思いついたのですか?
  2. 製作時の背景を教えてください。
  3. Daedalusがうまくいかないと思ったときはありますか?
  4. Sony SmartEyeglassを使ったHUDシステムについて教えてください。
  5. Daedalusの'パイロット'になるにはどうしたらいいですか?
  6. 移動方法の一つになることを望んでいますか?
Connector Geek is Dave in real life. After three decades in the industry, Dave still likes talking about connectors almost as much as being a Dad to his two kids. He still loves Lego too. And guitars.