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モジュラーシンセサイザ設計 part1:オシレータ入門

はじめに

この話は私のバーチャルアナログ音源の開発に関する研究から始まった。バーチャルアナログ音源というのは、デジタルオーディオにおける波形生成およびフィルター処理に焦点を当てた技術で、アナログシンセサイザーの挙動を再現することにより波形のリアリズムを向上させることを目的としたものだ。私は実際にバーチャルアナログ音源の自作に入る前に、まずは実際のアナログシンセサイザーの仕組みについてよく考える必要があった。具体的には、オシレーターというものがどのようにしてあの誰もが聞き慣れた音楽の音の波形を生み出すのか、という疑問である。

インターネットで少し調べてみればわかる通り、大抵のオシレーター回路は一般家庭で製作するには複雑すぎるか、または実際の音楽などに利用するにはシンプルすぎるかのどちらかだ。なので私はその間ぐらいの、伝統的な十二平均律で安定的に動作し、なおかつ実際の演奏セッティングで実用に耐えるようなものを見つけたいと考えた。

後の2回の投稿にわたり、出発点となる基本的な設計のオシレーター回路に記事の中で少しづつ改良を加えていきながら私が学んだことについて共有していく予定だ。改良というのは例えば音程の微調整機能の追加、バッファおよびアンプの追加、コントロール電圧による制御、パルス幅変調および温度補償などである。最終的にはこのビデオに登場するもののような、音程を容易に保ち、モジュラーシンセのセットアップに含められる、かなり安定したオシレーターができ上がるはずだ。

アナログシンセサイザーの始め方

すでに述べた通り、オシレータ回路は非常に複雑になる場合がある。例えば、このRobert Moog氏による図面群をちょっと見ていただきたい。 Robert Moog氏が描いた回路図は私たちがよく知っているモジュラーシンセサイザーの先駆けだ。彼の設計を再現することはコストも時間もかかる。そこでよりシンプルなものとしては、Atari Punk consoleというものがある。

Atari Punk consoleは「ステップド・トーン・ジェネレータ」と呼ばれており、出す音はその名の通りだ。ポテンショメータの値を上げていくと、並んだ音符の演奏を通して弾む(ステップする)ような音を出す。8ビット機の矩形波シンセサイザーに似た音だ。これは面白いプロジェクトではあるが、温度補償、バッファ、アンプ、入出力部における分圧、シーケンサとして扱うためのための電圧制御といった、市販の製品におおよそ搭載されているような機能は欠いている。

私はDIYフォーラムであちこち情報を捜し回った後、40106 ICを紹介された。このICはDIYコミュニティーでは人気が高いようで、様々なカスタマイズの余地を提供してくれるようだ。それでは、40106オシレーターの導入について詳しく見ていこう。

40106 ICの動作

40106 IC

40106 ICは6回路シュミットトリガーインバータである。シュミットトリガーというのはヒステリシス特性を持つ回路のことだ。これは入力電圧を高低2つのしきい値電圧とそれぞれ比較し、一度下側しきい値を下回ったら上側しきい値電圧を上回るまで出力値は変わらず、また逆に上側しきい値を上回ったら下側しきい値を下回るまで変わらないという特性を持つ。この論理ゲートは、抵抗器1つとコンデンサ1つのたった2つの部品を追加するだけで単安定オシレーターとして利用できる。

図1に示したのはメーカーがデータシートに載せている基本的な形の無安定発振回路だ。初期状態ではコンデンサ Cは完全に放電されていると考えると、入力電圧は0Vということになる。これは反転入力の下側しきい値を下回っているため、出力電圧はHighとなり、5ボルトを示す。この回路図の抵抗R はコンデンサへ流れ込む/流れ出す電流の量を制限する役割を持っている。コンデンサがRを通して充電され上側のしきい値電圧に達すると、今度は出力は0ボルトになり、放電に転じる。入力はやがて再び下側のしきい値に達し、単サイクルの発振が完成する。

40106 無安定マルチバイブレーター、矩形波出力構成

図1. 40106 無安定マルチバイブレーター、矩形波出力構成

fixed frequency output of the 40106 square wave schematic

図2. 40106 固定周波数矩形波出力回路の出力結果、RS Pro RSDS 1052DL+ オシロスコープ (123-6435) によって測定

データシートの回路に少しばかりの修正を加えれば、ノコギリ波を生成することも可能だ。図1の回路におけるコンデンサの放電は、仮に抵抗器がなければ瞬間的に起こる。上記の回路を変更し、ダイオード D1 を抵抗器の代わりに加えよう。これによって、出力がLowになっているときにコンデンサとインバータ出力が切り離される。ここで再び反転入力の値が下側しきい値に達したときのことを考えると、出力がHighとなりコンデンサ C1への 充電に切り替わることがわかるが、今回は瞬時に充電され、反転入力の値が一瞬にして上側しきい値を超える。抵抗器によって放電側ははるかに低速となり、瞬間的な増加と緩やかな減少のサイクルが完成する。回路を図3に示す。

ノコギリ歯出力構成

図3. ノコギリ歯出力構成

40106 固定周波数ノコギリ波出力回路の出力

図4. 40106 固定周波数ノコギリ波出力回路の出力

この回路に電源を入れるには、±12vの出力ができる正負電源が必要になる。これは大抵のモジュラーシンセサイザのセッティングにおける標準電圧であり、40106はこの電源電圧で十分に動作するようできている。

ノコギリ波オシレータを作成するために必要となる部品は以下の通りだ。

オシロスコープとマルチメータは必須ではないが、プロトタイプの回路をデバッグする際には便利なツールになる。

  • RS Pro 2205A 2 チャンネルオシロスコープ (163-2719)
  • RS Pro RS14 デジタルマルチメータ (123-1938)

さて、これでもうある程度の良好な発振が起こせる。読者の方はぜひ試しにスピーカーを繋げて試聴してみていただきたい。ただし注意してほしい点として、出力とスピーカーを直結するのではなく、しっかりしたインピーダンス整合および増幅を加える必要はある。ドローンの騒音のような音が好きだと言うなら話は別だが……

ひとまず、この記事は少し長くなってきたのでこのあたりで筆を置くことにする。ここまでにおいて、このプロジェクトについて語るための基礎中の基礎となる多くの事項に触れた。分割したこの先の記事で、ブレッドボードでのセットアップの詳細な写真をより多く交えて基本を振り返る予定だ。次の記事ではオペアンプによるバッファ、および固定周波数オシレーターから可変周波数オシレーターへの変更について解説しようと思う。

テスト中の回路

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