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英国ロケット事業の挫折と再開

Bill Marshall
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1971年に軌道投入に成功したBlack Arrow とProspero出典: ESA

ロケット開発の始まり

 1950年代、世界の指導者は「爆弾」開発に夢中だった。幸い、原子力爆弾や水素爆弾の開発には莫大な費用がかかるため、核を開発し保有できた国はごく一部に限られた。これらの核爆弾には、それを運搬するための手段としてロケット開発(ミサイルとして利用)が必要だ。そこで誕生したのが米国戦略航空軍団と英国 V-Forceだ。これにより、西側と東側の「相互確証破壊」(Mutually-Assured Destruction、MAD)が成立し、世界の平和が維持されてきた。そして、フォン・ブラウンが開発したV2弾道ミサイルのコンセプトに改良が加えられ、わずか30分で地球の裏側まで到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)が誕生した。

英国の中距離ミサイル「ブルーストリーク(Blue Streak)」

 米国とは異なり、ソビエト連邦と地理的に接近していた英国では、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の代わりに中距離ミサイル(Blue Streak)を開発することにした。開発を担当したのは航空機製造会社のde Havillandだ。しかし、1957年に開発決定した Blue Streakは、1960年にはミサイルプロジェクトそのものが中止に追い込まれた。まさに朝令暮改。英国政府が推進する大規模ハイテクプロジェクトではもはよく見かける光景である。しかし、この話には後日談があり、Blue Strekの改良版(後に「Black Knight」と命名。下記を参照)を第2段目ロケットとして追加することで、民間の人工衛星打ち上げロケット(名称: Black Prince)を開発する案が持ち上がった。残念ながら、この計画が実現することはなかったが、その後、英国・フランス・ドイツ・イタリアによって「欧州ロケット開発機構(ELDO)」が設立され、3段式の人工衛星打ち上げロケット(Blue Streakを第1段目として使用)を開発することになった。Blue Streakはテストのたびに申し分のない働きを見せたものの、南オーストラリア州のウーメラ試験場で行われたELDOの打ち上げテストは毎回失敗に終わり、1972年にはプロジェクト自体が打ち切りとなった。その後しばらくして、フランスが人工衛星打ち上げロケット「アリアン(Ariane)」の開発を開始した。

テストロケット「ブラックナイト(Black Knight)」

 Blue Streakの開発中、Black Knightという名称の準軌道ロケットがウーメラ試験場から定期的に打ち上げられていた。目的は「再突入体」のテストだ。再突入体とは、落下の際に核弾頭を保護するための筐体のことだ。Black Knightは信頼性が極めて高かったため、米国はテストを行うために、高額な支払いをしてまでBlack Knightを使用していた。

Black Arrow

 1964年、英国 王立航空研究所(RAE:Royal Aircraft Establishment)はBlack Knightの開発経験に基づいて、3段式の衛星打ち上げロケットの設計を考案した。このロケット(Black Arrow)を開発する契約を勝ち取ったのがサンダース・ロー社だった。1969年から1971年の間に、ウーメラ試験場で4回の打ち上げが行われ、4回目にしてようやく衛星(Prospero)を軌道に乗せるのに成功した。

Nick Stevens氏が最近作成したBlack Arrowのシミュレーションをご覧ください。

しかし、正直なところ1971年に行われたBlack Arrowの打ち上げは、英国ロケット産業の最後のあがきだった。実は、この打ち上げの前月に中止が決定されていたが、すでにロケットをオーストラリアに運搬中であったため、打ち上げが許可続行され、そして皮肉なことに最後の打ち上げテストで衛生打ち上げに成功することとなる。

どこで道を誤ったのか?

 第二次世界大戦終戦時に、なぜ米国と協力することを選んだのかを尋ねられたフォン・ブラウン(ドイツから米国に移住した当時のロケット工学の最重要人物)は、次のように答えている。「フランスは嫌い、ロシアは怖い、そして英国にはお金がないからだ」。世界大戦で戦費を使い果たした英国は完全に破産状態にあった。また、辛うじて機能はしていた英国の産業やインフラも、かなり疲弊していた。しかし政府というものは、まことに不思議なことに、戦時中においては軍事プロジェクトのための資金を必ず見つけ出してくるものだ。ひとつの戦争が終わると、間もなくして次の戦争が始まった。それが冷戦だ。そこで英国は核兵器を自国開発し、その運搬として、最初は未来的な爆撃機を、後に弾道ミサイルを使用するようになった。英国空軍基地スパディーダム(Spadeadam)やウーメラなどにある施設は、英国の弾道ミサイルのBlue Streakを開発するために建設された施設だ。そしてHigh Downは、同ミサイルプログラムの一部である、Black Knightを開発するために建設された施設なのだ。

 人工衛星への転用が検討されるようになったのは、英国製の弾道ミサイルには実用性がないことが認識されてからのことだ。強化型地下ミサイル格納庫を英国内に建設して、ニアミス攻撃を乗り切り、数時間後に弾道ミサイルを発射する(そんなことをして果たして意味があるのかわかりませんが)ための計画が策定された。そして、そのための掘削作業もスパディーダムで進められた。しかし、推定60もの(高額な)ミサイル格納庫を建設するための土地がBritish Islesにはないことに英国政府が気付いたため、計画は中止となった。そこで、Titan IIミサイルが英国製ミサイル格納庫に収容されることになった。1960年のBlue Streakの中止とともに、英国政府のロケット打ち上げに対する本格的な関心(そしてそのための資金)も途絶えたのだ。

 兵器としてのBlue Streakの中止は当然の帰結だった。しかし、なぜ民間の衛星打ち上げロケットとして転用できなかったのか。ロシアはICBMを転用してスプートニクを軌道に乗せた。米国のミサイル(AtlasとTitan)も転用可能だった。一方、英国のロケットはサイズ不足だった。あくまでも中距離用であり、ロケット転用可能な大陸間弾道ミサイルではなかったのだ。ロケット段の追加が不可欠だったが、英国政府はそのための資金を捻出することに消極的だった。当時は、衛星を軌道にのせる打ち上げ技術を開発しても市場がないと一般的に考えられていたためだ。しかし、計画を中止すれば、スパディーダム・High Down・Westcottなどの施設への投資がすべて無駄になる。だからこそ、形式的とはいえBlack Princeを進め、及び腰ながらELDOに参加した。最終的には、サンダース・ローがわずかな予算でBlack Arrowの開発を進めることなった。そして、第4試作機となる輸送ロケットのR3によってProsperoは軌道に投入された。しかしこのプロジェクトは、その数週間前に中止が決定していた。R4はLondon Science Museumに引き渡され(現在でも展示されている)、施設のほとんどは解体された。Black Arrowはあまりにも小さかった。積載容量が100Kgしかなく、通信衛星の積載容量がそれを大きく上回っていた。その後、フランスと欧州宇宙機関は、アリアンロケットで成功を収めていくことになる

試験場の跡地

 昔、家族とともにWight島で休暇を過ごしたことがある。その際、島の西端に位置するNeedles付近にある、沿岸警備隊のコテージに宿泊した。近くの岬を散歩していると、草むらに落ちている何かにつまずいた。切断した同軸ケーブルが大量に地面から飛び出していたのだ。なぜ大量の同軸ケーブルが地面に埋まっているのか。その答えは、岬の南端にあった。崖の下を覗き見ると、崖の中途に大きなコンクリート構造物と燃料庫らしきものを発見した。ロケット発射台の基底部と、エンジンの噴射を海の方向に制御するためのディフレクターだ。Needles砲台のガイドブックを見ると、その発射台でエンジンテストを実行しているBlack Knightロケットの写真が掲載されていた。そこは、サンダース・ローが所有するHigh Down試験場の跡地だったのだ。現在では、きれいに整備されて観光地になっている。

 かつて、英国製ロケットエンジンのテストはRocket Propulsion Establishment at Westcottで行われていた。この施設は、かつて受けた脚光をまた浴びることになるかもしれない。というのも、英国政府が、宇宙技術をテストするための新施設として、同施設の再稼働を計画しているためだ。

 Blue Streakの試験場として使用された巨大施設のスパディーダム (Cumberland)は、現在は兵器の試験場として使用されている。見応えのある古い構造物が数多く残されているが、予約なしで訪問することはできない。

現在

 英国は再び宇宙開発に挑戦しようとしているのだろうか。しかも、今度は英国内からの打ち上げが実現するのだろうか。ロケットの計画やスペースポートの候補地について、話題として取り上げられ、さまざまな憶測を呼び、記事として掲載した派手なWebサイトが出回っている。

スペースプレーン

 1982年、英国政府の資金提供のもと、ジェットとロケットのハイブリッドエンジンを搭載した水平離着陸の「スペースプレーン」の第1回開発が開始された。空気力学上の問題が数多く残されているものの、SABREという名前の特殊エンジンの開発は現在でも続いている。このエンジンのための新しい試験場として、WestcottのRPEを利用する計画が進められている。このエンジンは、Skylonという名前の新しいスペースプレーンに搭載される予定だ。

REL SABREエンジンを搭載したSkylonスペースプレーン 出典: GW_Simulations

英国のスペースポート

 SkylonやVirgin GalacticのSpaceShipTwoなどのスペースプレーンの存在により、英国内のいくつかの空港がスペースポートとして名乗りを上げるようになっている。例えば、NewquayにあるSpacePort Cornwallでは、Virgin Orbitと提携して、従来型航空機から小型ロケットを打ち上げて地球の軌道に乗せている。

 先日、英国を拠点とする民間企業が、従来型ロケットの開発と打ち上げに関する計画を発表した。これは、成長を続ける超小型衛星及び「ナノ衛生」(CubeSatsなど)市場に参入するための計画だ。これに伴い、垂直発射のスペースポートの候補地選びが行われており、その有力候補としてHighlandsとIslands of Scotlandが注目を集めている。英国最北端の施設は、次の2つの理由により、最適だと考えられている。

  • 安全性: 打ち上げを海上で行うことができる。
  • 北方向の打ち上げは極軌道に最適である。

このOrbexの動画では、A’Mhoine半島の予定地となっているSutherlandスペースポートについて、上記2点を説明している。

Sutherland スペースポート予定地出典: HIE

新しいロケット

 Sutherlandのモデルと見られているのが、New ZealandのMahiaに位置するRocket Labの打ち上げ場だ。ここは現在、Electronロケットの打ち上げ場として成功を収めている場所だ。SpaceX Falcon 9などの再利用可能なロケットを打ち上げる計画もある。しかし、ロケットはパラシュートで降下するため、ロケットの回収にはヘリコプターの使用を予定している。Scotland初の打ち上げロケットはElectronになるかもしれません。

 Orbexは、Primeロケットの打ち上げにSutherlandスペースポートを利用すると発表している。Primeには、炭素排出量の削減や、軌道上を周るスペースデブリの放出の回避、ロケット一段目の再利用を実現する革新的なアイディアが数多く採用されている。

 Skyoraも軌道投入用打ち上げ機(Skyora-XL)を設計している。同機のエンジン設計には、Black ArrowのGammaユニットとの類似点も見られる。灯油(燃料)と高濃度過酸化水素(酸化剤)という、初期のBritishロケットと同じ組み合わせを使用している。高濃度過酸化水素とは、その名の通り、高濃度(85%以上)の過酸化水素だ。液体燃料ロケットのほとんどは、液体酸素(LOX)を使う傾向があり、燃焼として液体水素(燃料用)と組み合わせて使うこともよくある。これが最も効率的な組み合わせだからだ。もう一つの利点は、自動点火エンジンが実現することだ。高濃度過酸化水素を触媒グリッドを通じて燃料室に供給すると、酸素ガスと極高温の熱蒸気に分解する。そこに灯油を加えると、シュッと点火して、ロケットが打ち上げられる。極低温燃料ほどのパワーはありませんが、安全性に優れた、低コストの打ち上げが可能になる。

 BristolにあるB2Spaceではロックーンと呼ばれる打ち上げ方式を実施している。ロックーンとは、ロケットを高空まで気球で運び、そこから発射する方式だ。精密性という点では見劣りするかもしれないが。

新たな始まりか

 商業打ち上げ市場で10%のシェアを獲得するという英国政府の目標を達成するためには、克服すべき課題がいくつも存在する。最適な打ち上げ場を見つけることは、課題の一つに過ぎない。より緊急の課題としては、スパディーダムやHigh Downなどの開発施設と試験施設(つまりインフラ)を再構築しなければならない。そして何より、これまでに失われてきたエンジニアリングに関するスキルと知識を取り戻す必要がある。NASAは、Apolloプログラムのために開発したインフラを廃棄しなかった。そのインフラを新世代のロケットエンジニアのトレーニングや、SpaceXなどの民間企業のサポートに活用している。

 Scottish Western IslesのSouth Uist島には、現在でもまだ辛うじて使用できる試験場の跡地がある。Hebrides Missile試験場だ。この試験場は、米国が2015年10月にICBMの飛来を想定した模擬演習を行う際に、2段式Terrier-Orionロケットの打ち上げに使用された。そのタイプの打ち上げとしては、Scotlandのものが初めてだった。

参考文献

Charles H. Martin著『De Havilland Blue Streak – an illustrated history』は、Blue StreakとEuropaのエンジニアリングに興味を持つ者にとっては必読の書だ。自分で実際に組み立てられると錯覚するほど詳しい説明が記載されているだけでなく、英国のスパディーダム・Westcott・Hatfield・Stevenage、そしてAustraliaのWoomeraの各施設の魅力(NASAの施設には及びませんが)が十分に伝わるだろう。

C.N.Hill著『A Vertical Empire』は、1971年の英国ロケットプログラムの歴史及び政治を詳細に綴った書だ。

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Engineer, PhD, lecturer, freelance technical writer, blogger & tweeter interested in robots, AI, planetary explorers and all things electronic. STEM ambassador. Designed, built and programmed my first microcomputer in 1976. Still learning, still building, still coding today.

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