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Starlinkコンステレーションの初期の60基の衛星が打ち上げ準備に入っているところです。 提供: SpaceX
はじめに
『2001年宇宙の旅』などで有名なSF作家 アーサー・C・クラーク氏は、1942年公開の”軌道を周回する宇宙ステーション”のアイデアに基づいて、『人工衛星による無線通信の中継 — 人工衛星の中継で世界をカバーする無線通信は可能か?』という先見的な論文を1945年に発表した。彼は、人工衛星による無線通信の中継(リレー)という世界初の斬新なアイデアを提案したのである。
この論文でクラーク博士は、赤道上空22,236マイルで地球を周回するわずか3基の衛星を使用して、世界全域を通信でカバーする、つまり「静止軌道」を実現する原理を説明している。赤道上空22,236マイルでは、衛星は地球の自転と同じ速度で周回することになり、地上の観察者からは衛星が空の特定の位置に固定されているように見えるのだ。わずか3基の等間隔に配置された衛星によって、世界中の通信中継サービスが実際に行われてきたが、この軌道は現在、地表のある区域、例えば北欧などにのみサービスを提供する、狭いビーム幅の衛星で非常に混雑している。動いていないように見える衛星による無線通信は、空を数分で横切るのを追跡しなければならない低軌道(LEO)タイプよりもはるかに簡単だ。一方で、厄介な問題もある。
赤道上なら便利、でも高緯度だと・・・
空に固定されているように見える衛星も、実際には赤道上を周回している。赤道上のレシーバは、衛星を頭上ではっきりと「見つけ」られる。一方で、高緯度地域にある受信機は、衛星が低位置に見える。例えば、北欧やカナダでは、地上のアンテナは地平線に近い方向に衛星を見ることになり、濃い大気・地形・建物によりあらゆる干渉が発生するという問題がある。
それでは衛星が望ましい高度に位置するよう、軌道を傾けてはどうだろうか。これは一見よい解決策のように見えが、残念なことに、その軌道はもはや静止軌道ではなくなってしまう。実際には、衛星は「8の字」の軌道上を漂っているように見える。それでも、衛星を常に見ることができ、移動可能なアンテナや、ビーム幅が十分広いアンテナであれば、通信を阻害されることはない。
静止衛星は高コスト
静止衛星には高い信頼性が求められる。静止衛星には多額の投資が必要であり、予測された運用寿命より早く機能が停止してしまえば、そうしたすべての投資が無駄になってしまうからだ。衛星TVチャンネルも使えなくなってしまう。
そのため、冗長系設計(二重化のようなバックアップシステムを使った設計)や、シールドの追加、打ち上げ前テストの実施などにより、ミッションの成功率を上げるための多大な労力が投じられる。また、運用寿命が尽きた衛星が衛星軌道上で「宇宙ゴミ」にならないよう、自動で「墓場軌道」に移動する仕組みを設けなければならない。
衛星コンステレーションとは
衛星コンステレーションとは、「多数個の人工衛星を協調動作させるシステム」のことである。ちなみにコンステレーションは星座という意味である。
1998年、イリジウム通信衛星コンステレーションの運用が低軌道で開始された。このコンステレーションは66基の衛星で構成されていて、個々の衛星が極から極をカバーするメッシュネットワーク内のノードとして機能する。イリジウム社は、世界中の衛星電話をカバーし、宇宙の「ワイヤレスネットワーク」が商業的に実現可能であることを実証した。極軌道は、北極と南極で特に通信状態が良く、衛星電話を快適に使用できる。2017年には、それに代わる新たなネットワーク「Iridium-NEXTの衛星が、まずは10基から打ち上げられた。これらの衛星は大型かつ高コストだが、数が少ないため、限られた数の比較的低データレートの同時「通話」しかできない。ブロードバンドインターネットアクセスでは、「メガコンステレーション」が必要になると思われる。
メガコンステレーション
イリジウムが運用開始されたことで、衛星技術に革命が起こり、宇宙機のサイズとコストが大幅に低減された。CubeSatやPocketQube、そして現在ではSpriteのような小型の衛星も存在する。SpaceX社は、12,000基もの衛星から構成されるような近未来の「コンステレーション」のテストランとして、低軌道に60基の小型衛星を打ち上げた。Starlinkプロジェクトは、全世界にブロードバンドインターネットアクセスを提供する、宇宙のセルラーネットワーク又はメッシュネットワークの構築を目的としている。この60基の衛星は、1台のロケットに搭載された「ディスペンサー」(見出しの写真)から軌道に放たれました。
太陽電池アレイが展開されたStarlink衛星 提供: SpaceX
コンステレーションの長所
コンステレーションは、100~1,200マイル(160~2000キロメートル)という、比較的地表に非常に近い軌道で運用される。地球全域を適切にカバーするには多数の衛星が必要だが、以下のような長所がある。
- 送信電力がはるかに少なくて済む。
- 推進力が必要となるのが軽微な軌道変更と軌道の維持のときのみ。
- 短距離であるため、通信の遅延や「衛星ラグ」が短くなる。
- 耐故障性が高いメッシュネットワークで、個々の信頼性がそれほど重要にならない。
- 非アクティブな「スペア」を軌道に保持し、必要があれば移動させることができる。
コンステレーションの短所
主な短所は2つ。1つは設計段階で解決されたが、もう1つはやや予想外でした。
- 衛星軌道が「宇宙ゴミ」で混雑してしまう可能性
- 点滅する白い光に覆われた夜空に起因する宇宙飛行士の混乱
前者について、地球の周りの宇宙にどの程度ゴミを捨てられるのかは、現時点で注目の話題となっている。各国間での協議の結果、今後の打ち上げ予定の衛星には、ミッションが終了すると大気圏に再突入して自動的に燃え尽きる程度の低高度で運用するか、強制的にデオービットさせられる仕組みを備えているか、いずれかを搭載することを決めた。
後者について、イリジウム衛星運用開始時、地上の観測者はある現象に気がついた。それは、下図のイリジウムフレアと呼ばれる光である。この光は、太陽光パネルが太陽光を反射することによって発生している。この現象はどの衛星でも発生するが、同一の衛星で構成されるコンステレーションのほうが、はるかにはっきり確認できる。これについては誰もそれほどいやがらなかったため、フレアを見つけることが、星空観察で普通に行われるようになった。一方で地上の天文学者や天体観測者を混乱させる可能性があるため、問題視されている。
なお、イリジウム衛星に代わる新たなIridium-NEXT衛星では、フレアは発生しなくなっている。
Starlink衛星は、放出された直後に見ることができる。 提供: SatTrackCam
Spriteコンステレーション
A KickSat-2 Sprite衛星 提供: Cornell University
昨年3月に、宇宙衛星の縮小がPCBレベルにまで達し、 KickSat-2というプロジェクトで3U CubeSatから105基の「Sprite」が軌道に放出された。地上との通信は成功し、3日後にデオービットされた。
KickSat-2がSprite PCB衛星を軌道に放出する様子のイメージ図 提供: Cornell University
こうした超小型で脆弱な衛星のコンステレーションも、実用的な用途での使用が期待されている。ブロードバンドインターネットネットワーク用として十分な強度と信頼性を備えていないことは明らかな代物だが、短期間の科学研究プロジェクトにはうってつけであるためだ。例えば、宇宙の離れた物体から信号を受信するように調整された、無線機能を備えた一連のSpriteを、地球上の巨大無線テレスコープとして機能するよう設定できる。測定を行い、結果を地上に送信したら、Spriteをデオービットすればよいのだ。
オリジナルの衛星を打ち上げられるかも
オリジナルのSpriteを製作して打ち上げられるとしたらどうだろうか。つい先日、私はKickstarterでこのAmbaSat-1衛星プロジェクトを見つけた。Arduinoをベースとするこの衛星は、KickSatのSpriteと同じ方法で「放出」された後、LoRaWANによって地上のThings Networkとの通信を試みる。
AmbaSat Sprite: Kickstarterで投資を待っている200基のうちの1基。
すべてが計画通りに進めば、コンステレーションは3か月後にデオービットされる予定だ。
最後に
カリフォルニア大学(UCSB)の研究者は、1枚の半導体ウエハーをベースとした宇宙機の開発にも取り組んでいる。この1センチメートル大のWaferscale宇宙機には、カメラ、センサー、スラスタが搭載されており、探査機を最も近い恒星であるケンタウルス座のアルファ星に送るBreakthrough Starshotプロジェクトの中核にもなっている。
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