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宇宙旅行を実現するUnity(ユニティー)とNew Shepard(ニューシェパード)

観光バスを待っていたら2台同時にやって来た。そんな気分だ。ただし観光バスといっても宇宙観光のことであるが。

Virgin Galactic社のVSS Unity(ユニティー)が初の旅客飛行を7月11日に行い、Blue Origins社のNew Shepard(ニューシェパード)がカーマン・ライン(Kármán Line)を超える飛行を7月20日に実現しました。Unityの飛行に関する説明、おおび、そもそも観光目的の乗客を「宇宙飛行士」と呼んでよいのか?について、次の記事の中で専門家の議論を見ることができる。→新しいかたちのスペースツーリスト ~宇宙飛行士と宇宙渡航者*?~

New Shepard taking off - Image credit: Blue Origin

ニューシェパード(New Shepard)が、理論的に航空機で飛行可能な最高高度であるカーマン・ライン(Kármán Line)を目指す
この海抜高度は、世界中で「宇宙」と地球の境目として認識されています。

画像引用: Blue Origin

今度は「本物」のロケット…

従来のジェット航空機を用いて上層大気まで飛行するUnityとは異なり、New Shepardでは徹底的に、ロケットによるパワーを使用して上層大気まで飛行し、戻ってきました。ただ、Unityと同様に、行きは単体の乗り物として出発し、帰りは単体ブースターとBE-3 エンジン の2つに分かれて戻って来ました。エンジンは約110,000 lbf(490 kN)の推力を、極低温燃料である液体水素と液体酸素(LH2/LOX)を使用して発生させます。原理的に排出されるのは熱と水のみなので、他の設計方法よりも環境にやさしいものです。

Virgin Galactic社のシステムで使用されたエンジンはこれとは異なり、ハイブリッドモーターを使用しています。このハイブリッドモーターでは、固形燃料を液体酸化剤で燃焼させます。固形燃料は、極低温タイプよりもずっと簡単、安全に取り扱うことができ、液体酸化剤は操縦士がモーターを手動でシャットダウンすることが可能で、これはUnityに必要不可欠な機能となっています。この燃料はゴムをベースとし、末端水酸基ポリブタジエン(HTPB: Hydroxyl-Terminated Polybutadiene)と呼ばれています。非常に良い性能を示しますが、カーボンブラック(すす)の粒子を上層大気に残してしまう傾向にあり、環境学者らは大きな懸念点である[1]ととらえています。また、酸化剤の亜酸化窒素(N2O)にも問題があり、リクリエーショナルドラッグ(快楽麻薬)として誤用されてしまうと死に至る危険性をもち、また、地球温暖化の原因である強力な「温室効果ガス」でもあります。とはいえ、ロケットに使用する際は、上層大気でガス漏れを起こさない限り問題はありません(もしも漏れてしまったら、オゾン層を破壊する可能性があります)。この問題に関しては、ジェットエンジンを搭載しているマザーシップEveについても考慮する必要があります。こういったことを前提に考えると、宇宙旅行が将来、本格的に「発射」されたら、New Shepardの方がUnityよりも環境への悪影響が少ないだろうと予想できます。

Booster stage of New Shepard returning to Earth - Image credit: Blue Origin

発射から7分後に地球に戻ってきたNew Shepardのブースター。写真の時点ではカプセルはまだ降下中で、パラシュートを開こうとしている段階。

画像引用:Blue Origin

フライトプロファイル ~弾道飛行~

Unityの航行は、 マザーシップのEve によって高高度へのんびりと巡行し、最終的には滑走路に着陸するため90分以上かかります。「宇宙体験」は、Unityのロケットモーターの点火から始まり、MECO(主エンジン燃焼停止) のあとすぐに数分間の無重力状態となり、その後宇宙船が航空機となって滑空しながら基地に帰還します。この搭乗体験はX15に匹敵するものですが、不快感や死のリスク等がすべて取り除かれています!

一方、New Shepardでの旅行はわずか10分間ですが、そのすべてが大まかにいうと「宇宙飛行士的な体験」であるといえます。下に示すFig.1は、簡略化したフライトプロファイルです。

A simplified view of New Shepard flight profile

この図から、体験の「中核」が、航空機やグライダーの段階がないだけで、Virgin Galactic社のものと同じであることがわかると思います。垂直にロケットで打ち上げられ、カプセルを分離し、パラシュートでの「着水」といった流れを体験できますが、私の考えでは、このような短時間のスリルを得るために莫大なお金を払うことができ、かつこれを望むような顧客はすぐに減ってしまうと思います。価格を大幅に下げるか、さらに多くの体験を提供できるかのどちらかを行わなければ存続は難しいでしょう。例えば、軌道上を周回するホテルでの滞在などでしょうか?

軌道に乗る

突然ですがここで問題です。UnityNew Shepardを、ある軌道上に乗せて飛行させることが可能なのでしょうか。正解は、絶対に不可能です。例えば、220マイルの軌道に乗せたい場合には、ロケットによって以下を行う必要があります。

  • 地球の表面に設置された状態から、軌道高度で約17,000 mph(約27358 km/h)まで加速する。
  • 離陸後すぐに姿勢制御を行い、目的の高度で、「水平」に移動できるような軌道速度にする。Fig.2参照。

New Shepardは、地面と垂直方向で約60マイルの高度に到達する推力しかありません。60マイルまで到達した時点では、垂直方向の速度がほぼゼロになり、「水平」速度も同様です。言い換えるとこれは、有人飛行が安全だと証明されてはいるものの、基本的には巨大なロケット花火にすぎません。このままでも飛びはしますが、軌道に乗せたい場合は桁違いに推力が大きなロケットが必要です。Blue Origin社では、そういった用途のためにNew Glennと呼ばれる乗り物の開発が進行中ですが、今のところはSpaceX社のFalcon 9が再利用可能な軌道用ブースター市場をほぼ独占しています。

SpaceX Falcon 9 two-stage rocket lifts-off - Image Credit: SpaceX

SpaceX社の二段ロケット、Falcon 9が物資やクルーを周回軌道上の国際宇宙ステーションへ

画像引用: SpaceX

上の写真を、New Shepardが1基のエンジンで飛び立つ写真と比較してみてください。Falconでは、9つのMerlinRP-1/LOX エンジンが、190,000 lbf (845 kN)の推力をそれぞれで発生させており、耳をつんざくような音と発射台を破壊してしまうほどの振動を発生させています。そのため、消音用に水を噴射することで大量の水蒸気が発生しているのがわかります。ただ、New Shepardにはこれが必要ありません。また、New Shepardからの排気はほぼ無色であるのに対し、Falconでは激しい炎が出ている点に注目してみてください。Falconで使用しているRP-1(ケロシン)は炭素の微粒子を発生させる傾向にあるため、環境にはやさしくありません。

フライトプロファイル ~地球周回軌道への投入~

Flight profile – Earth Orbit Insertion

一段目

遡ること1950年代、1つの巨大なロケットを使って物体を地球軌道に乗せることや、月へ行くことは現実的でないことが分かっていました。そこで、2段以上のロケットを積み重ねることで1つの大きなロケットを製作し、段階的に飛行する方法がとられました。それでも最下段や第一段目はロケット全体を持ち上げられるよう、非常に巨大である必要がありましたが、軌道に達するまでの途中地点で切り離され、地球に落下させることが可能です。上の図は、低地球軌道 (LEO) にペイロードを打ち上げる際の、Falcon 9ロケットのフライトプロファイルを簡略化したものですが、ここからわかる点として、一段目のエンジン出力では、New Shepardよりも高くまで到達できません。しかし、上昇軌道では非常に高速で移動します。その後、二段目がペイロードを正しい軌道に移動させ、その間、一段目は地球に戻って再利用されます。

二段目

二段目は一段目のようではなく、宇宙空間の真空状態で作動するために最適化された、単一のMerlinエンジン1基のみです。実際のところ、New ShepardにはFalconの二段目と同様の働きがあります。一段目と二段目の大きな違いは以下によるものです。

  • 一段目が切り離されて落下した後は、重量が大幅に減少する。
  • カーマン・ラインより上空では空気抵抗が大幅に減少する。
  • 二段目は、エンジンが点火される時点ですでに速度がついている。

SpaceX社は通常、アメリカ東海岸のケープカナベラルからロケットを打ち上げ、大西洋上空を東に航行させます。これは、軌道に向かうロケットが、地球の自転と同じ方向に進むことで、自転運動の助けを借りているということです。戻ってくるブースターは同じ方向に移動し続け、自動化された船上に着陸するか、一連の燃焼操作を行い、打ち上げ地点に戻します。

惑星への単なる足掛かりにすぎないのか?

SpaceX社が既存のCrew Dragonを使用して、裕福な旅行客に完全な「周回軌道上体験」を提供することは可能ですが、90分間地球を周回する際の旅のコストを億万長者でさえも躊躇するかもしれません。また、現状では、本格的な宇宙飛行士訓練が必須です。つまり、ISSよりも快適な何かが、宇宙空間での目的地として必要になってきます。この点について、SpaceX社もBlue Origin社も、火星をターゲットとして考えており、どちらも巨大なロケットであるStarshipやNew Glennを火星旅行に向けて開発中です。価格さえ適正であれば顧客不足に悩むことはきっとないでしょうし、その旅を経験する人は間違いなく「宇宙飛行士」という肩書きを得ることになるでしょう。

参考文献

[1] Potential Climate Impact of Black Carbon Emitted by Rockets, Martin Ross, Michael Mills and Darin Toohey, GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, 2010.

私の記事で、物体を軌道上に維持する方法を、アイザック・ニュートンによって初めて記された物理法則によって解説しています。
宇宙ごみの惨状 パート1:宇宙ゴミと軌道力学

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Engineer, PhD, lecturer, freelance technical writer, blogger & tweeter interested in robots, AI, planetary explorers and all things electronic. STEM ambassador. Designed, built and programmed my first microcomputer in 1976. Still learning, still building, still coding today.