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ムクドリの群れ                                                       画像著作権: John Holmes

虫や鳥の群れの行動はいつも科学者を驚かせてきた。群れの示す集団的知性がそれを構成する個々の知性をはるかに上回るように見えるためだ。自然界における古典的な例にムクドリの「群体飛行」がある。数千羽の鳥が編隊を組むようにして飛び、驚くほど正確に急旋回する。

何が群れを作るのか

 群れには、集団知性がある。これは何がきっかけでできるのか。それはスティグマジーと呼ばれるものだ。そもそも群れとは、自然又は人工の同種の生物の大きな集団だ。それぞれが持つ知性は限られているが、全体がまとまって働くことで個々の能力をはるかに超えた目標を達成する。重要なのは、限られた知性を備えた同種の生物であることだ。自然界での例は、アリ、ミツバチ、シロアリだ。これらの虫は理性の力を持っていないように見える。集団内の近くの虫との接触や周囲の環境に単純な方法で反応するだけだ。それにもかかわらず集団として働くとき、繁殖のために最も精巧な巣を築き上げることができる。ただし、お互いが直接やり取りする必要はない。たとえば、アリは餌のありかから巣に戻るときにフェロモンを落として道筋をマークし、他のアリが後を追えるようにする。この環境を変え(意味のあるマーカーを残す)、その後のエージェントの行動に影響を及ぼすプロセスはスティグマジーと呼ばれる。スティグマジーは、中央のリーダーシップや計画を必要としない集団的知性、群体知性の発現につながる。

自然対人工

 群体知性の概念は、大規模昆虫コロニーが単体として「考える」能力があるように見えることを説明する必要性から生まれた。科学者たちは、自然個体のシンプルな行動パターンを鑑みて、比較的小さな数学的「ルール」のセットでモデル化できるのではないかと考えた。ルールは、群体シミュレーションをプログラムの形で、当時の比較的低性能のコンピュータでも実行できるくらい単純だった。1970年、John Conwayという数学者が、仮想単細胞生物のコロニーのシミュレーションを考案した。このライフゲームという名前のシミュレーションによって、能力の低い人工個体が相互にやり取りしたときに、洗練された集団行動を発現させる方法の研究が切り拓かれた。すべての個体がほとんど同一で、同一のルールに従っているとき、同質集団と呼ばれる。

 研究者たちは1950年代には、ロボットを使用して群体行動をエミュレートしようと考えていたが、十分なサイズの群れに足りるユニットを制作することは非常に難しく、コストもかかり過ぎるという問題があった。現在は、マイクロエレクトロニクスのおかげで、非常に低コストのロボットで人工群体を構築することが可能になった。多くのロボットは、機動性があり、直近のロボットを検出し、直接通信できる能力を持つ。もちろん生物のすべての機能を模倣することはできない。特定のパターン又は形状を形成するよう集まる、リーダーに従う、「脅威」を取り囲むなど、特定の行動だけだ。2011年、ハーバード大学の研究者がシンプルで安く作れる群体ロボット、Kilobotの設計を公開した。この名前は、1000台以上の人工群体を作成することを目的に設計されていることから付けられた。

 

 次のビデオでは、さまざまなクラスタ形状を作成するようにプログラムされたKilobotの群れが見られる。各ロボットは、同一のルールセットでプログラムされ、直近のロボットとのみやり取りをする。中央制御はありません(グループプログラミングと開始/停止を除く)。

群体エンジニアリング

 完全自律型でありながらコラボレーションもできる、よりパワフルなロボットを少数使用してタスクを実行するのではなく、群体として動作する多数の比較的原始的なロボットを使用することにはどのような利点があるだろうか?それは用途によって異なる。群体エンジニアリングには次のような実用的な利点がある。

  • 単純さ: 群体ロボットは、自律的ながらも、実行できる動作の数が限られる。そのため小型ロボットの機能に適した小型プロセッサに役立つ。
  • 拡張性: ワークフォースを増やす必要がある場合は、同一のロボットを増やすだけで済む。やり取りはすべてローカルで行われるため、ただちに追加した効果が現れる。
  • フォールトトレランス: 一部のロボットが動作を停止すると労働力が縮小するが、グループタスクの実行は継続される。時間は若干長くかかる可能性がある。
  • 並列実行: 同じタスクを別の場所で別の「チーム」によって実行することができる。

スティグマジーをソフトウェアでシミュレートするのは簡単だ。それよりはるかに難しいのが、アリのフェロモンによる間接コミュニケーションに相当するものをハードウェアで作成することだ。群体研究用に設計されたほとんどのロボットでは、赤外線、Bluetooth、又はWiFiをベースにした直接ワイヤレス通信が使われている。つまり、群体のメカニズムの研究は、大きく分けて「自然」の間接プロセスと「人工」の直接プロセスの2系統に分かれている(下の参考文献(1)を参照)。床接置型のRFIDタグのグリッドをベースにした間接通信の新しい手法については、参考文献(2)で説明されている。

小集団か大群体か

 「知性」を必要とする用途向けの人工群体システムの実装は、上記の実用的な利点からも魅力的だ。特定の状況における1台の大型自律ロボットや、連携するそのような機械のグループに取って代わるれるものではないだろう。

 地震多発地帯のような広域被災地を例にとる。多数の、おそらく数千台の鳥又は虫サイズのドローンが広く間隔を取って編隊飛行を行い、孤立した生存者を捜索できる。最初のドローンが調べるべきものの目星を付け、その直近のドローンが続いて詳細な調査を行う。その間、他のドローンは密集して高高度探索を続ける。物理的なサイズを鑑みれば、ドローンの検出及び報告能力は限られているが、それこそ広域の群体行動には最適だ。長期のロボティック昆虫調査プログラムはそのような群体を作成することを目的としている。ハーバード大学の「The RoboBee Collective (RoboBeeの共同体)」を参照してほしい。次のビデオでは、最新のRoboBeeが動く様子を見ることができる。

 

 地上では、補給とレスキュー機器を装備したヘビーデューティロボットの小集団に「ホットスポット」目掛けて損傷の激しい地表を移動するように命令できる。この集団は群体としては機能しないが、個々のロボットが必要に応じて、おそらく人間のオペレータの監督のもと連携する。

群体学習

 群体プログラミングは各ロボットが同一の数行のコードを使うだけの簡単なものに見えるかもしれない。難しいのは、各単体ロボットの直近のロボットとのやり取りを制御する数個のシンプルなルールからタスクを実行するのに必要な群体行動を発生させることだ。問題は、センサ入力に対して予測可能な方法でロボットをプログラムすることはできるが、入力自体は一切予測できない点だ。つまり、個々の行動のタイミングと全体的な群体行動を事前に決定することは困難だということだ。見出しの写真のムクドリの群れを例にとると、それぞれの鳥の動きを制御する「ルール」は次のように単純かもしれない。

  • 前の鳥と同じ方向に飛ぶ。
  • 3次元の全方向に対して互いに一定の距離を取る。

これについて問題はすぐに判明する。「先導する」鳥の動きを制御しているのは何なのか?飛び立ったり地表に降りたりする判断の背景には何があるのか?鳥は、群れを成してないとき、芝生歩き回ってクチバシで地面を掘り起こし、虫を探したりなど、それぞれが自律的に行動する。しかし、群れ全体の鳥が飛んでいるとき、振り付けられた突然の方向転換のように見える行動は、ランダムな気流によって飛行経路がわずかに変化し、それが群体ルールによって増幅されただけかもしれない。いずれにせよ、生物は群体行動から個体行動に又はその逆方向に自由に切り替えられる。

 複雑なロボット群体タスクの厳格なルールを記述しようとするのは、群体全体への影響がランダムなため極めて困難のためだ。写真画像内の物体を認識するのに使われるディープニューラルネットワーク(DNN)のすべての重み係数を手で計算しようとするのと同じくらいの悪手だ。どちらの場合も、確実な又は決定論的な答えは得られない。確率論的システムと呼ばれるものからもっともらしい答えのリストが得られるだけだ。チューリング学習と呼ばれる手法を使用すると、DNNが物体を認識できるように「トレーニング」することができる。この手法は、群体行動の特徴付けにも使用できます。詳細については、下の参考文献の(3)を参照してほしい。

ナノボット

 私たち人類は、何の群体であっても否定的に見がちだ。特に飛ぶ昆虫は針で刺して強烈な痛みを与えることができる。Alfred Hitchcockの1963年の映画『』は、フィクションながら、当時人々に鳥の巨大な群れに対する恐怖を呼び起こした。『アイ,ロボット』などの映画では、ロボットの群体が同じような反応を引き起こしている。ただし、技術的には後者のロボットは中央制御で群体知性に依拠していない。考えられる最も恐ろしいシナリオはどんなものだろうか?分子サイズのロボットの膨大な群体が皮膚から体内に入り込み、血管を通って脳に入ってくるというのはどうだろう。しかし、それで命が助かるとしたら?このアイディアは昔から存在する。1959年は、物理学者のRichard Feynmanは、原子を操作することで物を作ることに関する論文を書いている。その中で、人体に注入したナノスケールのロボットを使用して手術を行うアイディアについて言及されている。1980年代まではほとんど何も起きなかったが、ついにナノテクノロジーとマイクロマシンの概念が実現可能なリアリティとして勢い付き始めた。そんなに小さなデバイスに十分な知性を持たせることが可能だろうか?自然界にはウイルスや細菌のようなモデルとなるものがある。これまで大きな進歩はないものの、ラボでは「分子モータ」とギアが製造されている。しかし、マイクロチップスケールのメカニズムの唯一の実用化は、ジャイロスコープ、加速度計、その他のセンサを小型化しているMEMSテクノロジーによるものだ。

未来に高度な群体知性を備えたナノボットが悪い方向に向かったらどうなるのかについて、SF作家が私たちの創造力を刺激する作品を書いている。Michael Crichtonの2002年の小説『プレイ -獲物-』を読んで恐怖に震えてほしい。

参考文献

Swarm Robotics and minimalism. (群体ロボティクスとミニマリズム)、Amanda J.C. Sharkey (1)

From Ants to Service Robots: an Exploration in Stigmergy-Based Navigation Algorithms (アリからサービスロボットまで: スティグマリーベースのナビゲーションアルゴリズムの探究)、A.Khaliq (2)

Turing learning: a metric-free approach to inferring behaviour and its application to swarms (チューリング学習: 推論行動に対する指標を使わないアプローチと群体への応用)、Wei Li, Melvin Gauci and Roderich Groß (3)

Engineer, PhD, lecturer, freelance technical writer, blogger & tweeter interested in robots, AI, planetary explorers and all things electronic. STEM ambassador. Designed, built and programmed my first microcomputer in 1976. Still learning, still building, still coding today.
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