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安全に対する思い込みが招いた悲劇をHerald of Free Enterprise号から学ぶ

今から30年前の1987年3月6日17時20分、乗客、車両、貨物を載せたフェリーMS Herald of Free Enterprise号は、ドーバーへ向けてベルギーのゼーブルージュ港の防波堤を通過したが、その後僅か8分の間に船は完全に転覆、193名もの犠牲者が出てしまった。航行中、バウドア(船内に車両の出し入れするための出入り扉)が開かれたままとなっており、そこから浸水して転覆するに至った。なぜそんな事故が起きたのだろうか。一つ一つ振り返り、その原因を探ると何が見えてくるだろうか。

この事故の一つの大きな原因は、24時間シフトの往復航路の最後の復路ということで、船員達の披露がピークに達していたことだろう。バウドアを閉じるのは、甲板長のアシスタントの仕事だったが、報道によれば、疲弊していた彼は自室のドアを締切り熟睡したまま、出航前点検を指示する警報で目覚ることができなかったそうだ。ちょうどそのころ、出航前で持ち場を回っていた一等航海士は、オレンジ色のオーバーオールを着た男を見かけ、それがバウドアを閉じて戻ってきた甲板長のアシスタントだと思い込んでしまった。「彼がここに戻ってるということは、バウドアは既に閉じられている」彼はそう判断し出港可能の判断を下した。実は彼が自室で寝ている、などとは思いも寄らなかったのだ。

運搬船のバウドア(イメージ)

事故が発生するまで

「すべて問題なし、すぐに出港可能」一等航海士から報告を、船長はそのままうのみにした。船長のいるブリッジからはバウドアの開閉を確認することはできない。彼は自分の目で確認せずに航海士の言葉をそのまま信じたのだ。こうして発生した“ジレンマ”に加えて、フェリーとゼーブルージュ港をつなぐためのリンクスパン機構の設計に互換性がなく、フェリーの車載デッキを正しく接続できなかったことももう一つの原因だろう。ゼーブルージュ港の積み込みのランプ(車両出入れ用の稼働橋)に必要な高さと合わせることができず、それを補うためにHerald of Free Enterprise号はバラストタンクに水を入れ、3フィート船の喫水を下げていたのだ。こうして事故が発生したのだ。

Herald号が出港し速度を15ノットに上げる。すると開いたドアから1分間に200トンもの海水が流れ込み始めた。そうして、開いていたランプから流れ込んだ水によりバウが完全に満たされると、そこからさらに海水の流入は増えた。出発の7分後、船が反応しなくなったと操舵手が報告した。船長は直ちに船を帰港させようとしたが、時は既に遅く、港側に転覆して砂州に座礁してしまったのだ。この砂州のおかげで、さらに多くの人命が失われる事態は回避することができたのが小さな幸運だ。この恐ろしい結末まで8分しかかからなかったという。

その夜、船には乗客459名と船員80名が搭乗し、自動車81台、バス3台、トラック47台が積載されていた。転覆の際、ほとんどの乗客はラウンジか自分の船室にいた。船が転覆するまで8分ととても早かったため、乗客には対処する時間がまったくなかったことだろう。船が横たわったときの船内のパニックは恐ろしいものだったに違いない。すべての照明は消え、凍るように冷たい海水が通路から流れ込んでくることが想像できるだろうか。

悲惨な事故の原因は何か

乗客と船員、そして現場に到着したさまざまな救助団体の懸命な活動により多くの命を救われた。しかし、193名もの人が船員の重大な過失と「安全プロトコル」として用いられていた機構が原因で亡くなってしまった。結果的に彼らの死因のほとんどは低体温症だったという。このような事故を防止する方法は、バウドアが閉じていることを制御室に視覚的に伝える機械式な内部ロックや、ドアが開いているとエンジンが駆動できないようにする内部ロックから、バウドアの状況を確認できるテレビカメラの設置まで、いくらでも考えられる。このような障害が発生する可能性をHerald of Free Enterprise号や当然ながら他の同クラスのフェリーの設計段階から考慮していれば、この事故がこのような形で起きることはなく、多くの命が救われたに違いない。

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より安全にするために必要なこと

安全性を製品に組み込むことはあらゆる設計に不可欠だ。自身の製品が原因で誰かが死ぬようなことがあれば、起こり得る訴訟・罰金・禁固、その他あらゆる悲惨な結果をもらたすのは明白だ。しかし、安全性を製品の設計に組み込むこと、あらゆる潜在的脅威点を理解することは難しい課題となっている。どのような規格やコンプライアンスに従うべきか、どのレベルの保護が必要か、ユーザーが自身の製品を使用することで晒されるすべてのリスクはどのようなものかなどを考えなければならない。たとえば“作るもの”が新しい海峡横断フェリーであろうと、ヘアドライヤーであろうと、そこに関わってくる要素や機械のすべての側面1つ1つを特定の規格に準拠させる必要があるということだ。設計が複雑になればなるほど、そのプロセスも複雑になっていく。

安全対策を設計プロセスに組み込むためのソリューションが必要な場合は、「機器の安全確保」のセクションを参照頂きたい。またアールエスコンポーネンツでは、まもなくDesignSparkを通じてリスクアセスメントをサポートする新ツールを提供する予定だ。

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