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学生支援プログラム「IGLUNA」に挑戦したチーム「PowerHab」の取り組み

この記事について

この記事では、スイス宇宙センターが主催する学生支援プログラム「IGLUNA (イグルナ) 2019/20」の最終ステージに参加した学生チーム「PowerHab」(ストラスクライド大学)の研究課題と成果物について紹介します。

このIGLUNA(イグルナ)プログラムは、「宇宙探査の未来と人々の暮らしの向上」をテーマに、世界中の大学生が革新的なアイデアやサービスを試案し、協力しあってその実現性を検討する教育プログラムです。参加学生は1年間掛りの定期的なイベントに参加し、様々なアイデアを議論します。そしてその最終ステージとして実地訓練イベントがリモート開催され、開発した技術や作品を披露すると共に、プレゼンテーションが行われます。

ストラスクライド大学の学生で構成されたチーム「PowerHab」は、RS協賛の元で月面居住区の電力システムの開発をテーマとして取り組みました。さらに、リチウムイオン電池管理システムと再生型水素燃料電池のプロトタイプを製作・実証し、実システムへの実装コンセプトも披露しました。

結果、チーム「PowerHab」は、最終ステージに進出したチームのうち上位3チームまで残り、ESA(European Space Agency: 欧州宇宙機関)事務局長のヤン・ウェルナー(Jan Wörner)さんと、SSC(Swiss Space Center: スイス宇宙センター)科学技術顧問のヨハン・リチャード(Johan Richard)さんに対し、プレゼンテーションを行う機会が与えられました。

月面居住区電力システムの概要

この章では、最終ステージで発表された、月面居住区電力システムの完成形について紹介します。

要件

システムの重要な要件のうちいくつかは、サブシステムのサイズ設定を行うために以下のとおりに設定しました。

要件 説明
発電 月面居住区に1時間あたり最大150kWを供給
ストレージ 月の夜間を考慮し、最大52時間、1時間あたり最大150kWを供給
資源 月の資源を賢く活用し、ロケット発射時の質量を最小限に抑える

最終的な電力システム設計

最終ステージで発表された、完成形の電力システムと、各サブシステムについて、説明していきます。開発したシステムについて、さらに詳しく知りたい方は、過去のチーム「PowerHab」についての記事をご覧ください。
https://www.rs-online.com/designspark/powerhab-student-team-lunar-habitat-power-system-overview.

PowerHab

設備:宇宙部分

太陽反射衛星(SRS: Solar Reflector Satellite)

SRSは、今回開発したSPSに向けて太陽エネルギーを反射するために使用され、大量の太陽エネルギーを収集できるようにします。また、SRSがキャストシャドウコーン内にいない場合、月食時にSPSが太陽エネルギーを受信できるようにします。

太陽光発電衛星(SPS: Solar Powered Satellite)

SPSには、太陽エネルギーを生成するための大きなソーラーパネルが取り付けられています。このエネルギーは、月面にマイクロ波を送信する、無線電力伝送と呼ばれる方法を用いて送信されます。衛星の送信機は94GHzのマイクロ波を放射し、月面のマイクロ波レクテナによってビームダウンして収集され、エネルギーを電気に変換します。

設備:地上部分

太陽電池

地上基地の大規模な太陽電池アレイは、地上での太陽エネルギーの収集と、第1段階の展開エネルギー生成オプションを提供するスペースを可能にするために実装しました。

リチウムイオン電池システム

ブロック工法を用いて、月面に広がる多数のバッテリバンクから成る、大型バッテリエネルギー貯蔵システムとして設計しました。

水素燃料電池システム

水素燃料電池システムは、月の南極に理論上存在する水を燃料として利用することで、実装に必要な質量を最小限に抑えられ、さらに、再生可能なエネルギー貯蔵装置として機能させることが可能です。

蓄熱システム

蓄熱システムは、月のレゴリスと太陽エネルギーを利用して、配管内の流体を加熱し、スターリングエンジンに動力を供給するような、月面居住区での貯蔵オプションとして開発しました。

システム概要

各サブシステムは、設計に冗長性をもたせるために、全てのエネルギーを発電、蓄電できるように設計されており、完成した電力システムでは、最低150kWの発電、蓄電要件を満たしました。

IGLUNA 2020の最終ステージでPowerHabが経験したこと

IGLUNA 2020の最終ステージは、 2020年7月10日から19日にかけて行われました。ここでは、最終ステージに参加した15チームすべてがYouTubeのライブストリームを通じて、調査結果や、数多くのプロトタイプを一般の方々に公開しました。また、プロジェクトの紹介だけではなく、ESA宇宙飛行士のアレクサンダー・ゲルストなど、多くの宇宙産業に関する分野の専門家を招き、彼らの素晴らしい経験の紹介や、最終ステージに参加した多くの学生の、将来の可能性を強調する場面がありました。16日の木曜日にはプレゼンテーションが終了し、金曜日は、各チームがさまざまな企業と電話を行える、ネットワーキングの日となり、SSCとESA両方の専門家からフィードバックを得る事ができました。その後、土曜と日曜は、表彰式および上位3チームによるESA事務局長へのプレゼンテーションが行われ、閉会式を迎えました。スケジュール全体は、以下のようになっています。

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チーム「PowerHab」は、最終日である16日木曜日に発表する予定でした。そのため、本番の前にはリハーサルも兼ねて、他チームや宇宙専門家のプレゼンテーションに参加し、ライブストリームのチャットで質問をしたりして過ごしました。

16日(木):PowerHabチームの発表

チーム「PowerHab」のプレゼンテーションは、7月16日の午前10時から11時まで行われました。プレゼンテーションは、チームが1年間で実施した作業をデモンストレーションする40〜45分のプロジェクト紹介と、SSCやYouTubeの聴衆による、15分間の質問タイムで構成されました。

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プレゼンテーションはズームで行われ、スイス宇宙センターに設置されたストリーミングを介して、YouTubeのライブストリームに共有されました。私たちPowerHabチームは、コロナウイルスによるロックダウンが実施されていたため、すべてのメンバがスコットランド内の自宅からプロトタイプの組み立てと、発表を行いました。これにより、チームはリハーサルのために直接会うことができず、加えて1台のコンピューターからしかプレゼンテーションを行うことができないなど、複雑な状況のもと、発表を行う必要がありました。フィールドキャンペーンに参加したチームのメンバは次のとおりです。

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ガレス・ミッチェル(左上)、ドナルド・マーティン(左下)、ドリュー・ギレスピー(中央)、ギャビン・ロジャース(右上)、フィンレイ・ロウ(右下)

本番では、チームメンバ全員が、さまざまなサブシステムを、電力システム全体の一部として十分に紹介でき、プレゼンテーションは大成功となりました。設計部分は一般の方々にも説明をし、数多くの計算と分析によって、裏付けられました。フルスケールの電力システムも発表し、水素燃料電池とリチウムイオン電池管理システムの両方のデモンストレーションを成功させることができました。PowerHabは、最終ステージ期間中に最も視聴されたプレゼンテーションの1つとなり、また、作品について、多くの質問を受けましたが、丁寧に、自信を持って回答できたため、一般の方々は、私たちのプレゼンテーションに非常に好感を持ってくれているようでした。

以下の動画では、PowerHabプロジェクトの発表を見ることができます。

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17日(金):ネットワーキングとフィードバック

PowerHabチームは、最終ステージでネットワーキングを行うために、一日を通してさまざまな会議を手配しました。

RSコンポーネンツの学生支援チーム「Grass Roots」

プロジェクトを後援していただいたRSコンポーネンツグラスルーツ(Grass Roots)チームとミーティングを行い、チームの成功についてや、今回の協力関係がいかに良いものであったか話し合いました。RSチームは、私たちに祝いの言葉を伝え、年間を通した努力を称賛してくださいました。

ESAエキスパートフィードバックセッション

次に、最終ステージの期間中、作業をレビューし、監督していただいたESAの専門家と面会しました。プレゼンテーションは非常に専門的であり、デモンストレーションは興味深く、一般の人々にとって魅力的であると、フィールドキャンペーンでの発表について、非常に好意的なフィードバックをいただきました。

SSCによるフィードバックと成果

金曜日のセッションは、スイス宇宙センターによるフィードバックで締めくくられました。そこでは、チームメンターから全体的なフィードバックがあった後、プロジェクトのうまくいった点と、今後改善すべき点について、各チームと議論しました。

フィードバックの概要

PowerHabチームに提供されたフィードバックの全体的な結論としては、プレゼンテーションは非常に専門的で、興味深く、魅力的であり、そして、専門家の方々は、全体を通して、チームの努力と参加に非常に感銘を受けたというものでした。

18日(土):授賞式

土曜日、SSCはIGLUNAでの活動と、年間を通した学生チームの努力を称えるための場を設けてくださいました。プロジェクト発表の成功や、最終ステージへの参加、チームワーク、作品の質、積極性を考慮し、賞が授与されました。その結果、以下のチームすべてが、IGLUNA 2020最終ステージへの貢献に対して賞を受賞しました。

受賞チーム
P01 MELiSSA P10 FOCUS
P02 GrowBotHub P11 Celestial
P03 SWAG P12 Smart Lunar Clothing
P04 V-GELM P13 LIGHT
P05 SAMPLE P14 LDMS for Life
P07 Habitat P15 PowerHab
P08 AMPEX P16 ROVER

 

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これらのチームはすべて優秀賞を受賞し、さらにSSCは、ESAの事務局長であるヤン・ウェルナーさんと、SSCの科学技術顧問であるヨハン・リチャードさんの前でプレゼンテーションを行う機会を与えることにより、上位3チームを表彰することを決定しました。トップ3に入賞したチームは次のとおりです。

  • P15 PowerHab – ストラスクライド大学(University of Strathclyde)
  • P08 AMPEX – RWTHアーヘン大学(RWTH Aachen University)
  • P11 Celestial – ベルリン工科大学(Technische Universitäy Berlin)

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19日(日):ESA局長へのプレゼンテーションとIGLUNA 2020の終了

日曜日には、IGLUNA 2020の最終ステージが幕を閉じました。最初に3つの受賞チームが事務局長への発表を行い、その後、SSCにより閉会式が行われ、期間中の関係者の働きに感謝しました。

PowerHabによるESA事務局長への発表

PowerHabは、チームの作品と、発想に対し多くの感銘を受けたと伝えてくださった、ヤン(Jan)さんとヨハン(Johann)さんに対し、プレゼンテーションと、さまざまなプロトタイプの紹介を行いました。発表後チームは、お二方から今後の活動に生かすことができるようなフィードバックや、指摘、質問をいただきました。ヤンさんとヨハンさんにお会いできたことは非常に光栄で、この経験によって、これ以上にない最高の形で今回の活動を締めくくることができました。

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スイス宇宙センターによる閉会式

3チームのプレゼンテーションが終了し、ヤンさんとヨハンさんから、どれほど感銘を受けたか、そして、これからの新しい世代の学生たちと一緒に行う宇宙探査の未来が楽しみだということについて、コメントがありました。最後に、COVIDによる制約がある中で、この最終ステージを実施するために一生懸命取り組んでくださったスイス宇宙センタースタッフの皆さんを称賛し、年間を通してプロジェクトに協力してくれた、多くの卒業生が表彰されていました。このようにして、IGLUNA 2020フィールドキャンペーンが幕を閉じました。

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今後はどうする?

IGLUNA 2020は正式に終了し、今回参加したPowerHabのメンバは、IGLUNA 2021へ向け、新しい学生メンバに交代することになります。現在検討されているシステムをさらに発展させ、新しい電力システムを調査、実現可能性を判断することにより、電力システムの開発を継続することを目指しています。私たちは、現地開催でも、オンライン開催でも、2021年の最終ステージにまた参加したいと考えており、作業を継続できることを楽しみにしています。

チームに関する最新情報を知りたい方は、LinkedInのフォローをぜひ、お願いします。https://www.linkedin.com/company/28951501/admin/

 
We are PowerHab! A team of fourth- and fifth-year engineering students from the University of Strathclyde selected to participate in the IGLUNA 2020 campaign with the Swiss Space Center and ESA. Our objective is to develop a system capable of powering a lunar habitat whilst maintaining resiliency in the harsh lunar environment.
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