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ラズパイコンテストの審査を通じて考えたラズパイの価値とは?

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去る11月某日、東京虎ノ門のオフィスビルにて、毎年恒例となった「みんなのラズパイコンテスト」の審査会議が行われ、私も審査メンバーの1人としてそこに参加していた。前もって送られてきた参加者の申込みは総数184件!それを1枚1枚を隅々まで目を通し3日間かけてチェックした上で、この日の審査会に参加していた。骨の折れる作業であるが同時にとても楽しい時間でもあった。184もの応募の中には、IT技術、電子工作、メカトロニクス、電気制御、エネルギー、などの幅広い視点でのアイデアが散りばめられていて、参加者の斬新なアイデアやその実現に向けた情熱に例年以上に心揺さぶられる思いがした。

審査は今も調整が続いており、最終結果については11月27日に、こちらの応募サイトにて正式発表される。さらその翌々日29(日)13時より、「日経クロストレンドEXPO 2018」(2018年11月28日~29日、東京国際フォーラム)会場内で、受賞作品発表会が行われる予定だ。応募された方は楽しみに待っていて欲しい。

ラズパイの意義

今回、この審査を通し、「ラズパイの本質的な価値」を改めて整理して考えてみたので、それをここにまとめてみる。結論を一言で述べると、ラズパイの価値とは「革新的な商品のラピッドプロトタイピングに最適なプラットフォームであること」 なのだと感じた。「革新的」というと単語のニュアンスから、「ラズパイに何か技術的な優位性がある」ように感じる方がいるかもしれないが、そういうわけではない。

商品企画プロセスに革新をもたらした

まず、「ラピッドプロトタイピング」とはなんであろうか?試作を手早くやること?その理解では本質をつかめていない。ここでは新商品の企画・開発のプロセスに注目して考えてほしい。

どんな商品であっても、新商品企画のプロセスを経てから世の中にリリースされる。ISO9000(品質マネジメントシステム)では商品企画のプロセスが規定されており、その商品がユーザニーズに合致しているかどうかを、各フェーズのDR(デザインレビュー)でチェックするよう規定されている。しかしハード商品の場合、いくらDRを行っても、開発したものがほんとにユーザのニーズに本質的にマッチしているかは、実際にモノを製造し市場に出すまでまで分からないことがほとんどだ。

そこで昨今、商品企画前に「新商品案の具現化」を行い、ユーザニーズに合致するかどうかのチェックを事前に行う企業が欧米を中心に増えてきた。この「新商品案の具現化」のことを「プロトタイプ」、プロトタイプを作成することを「プロトタイピング」と呼ぶ。プロトタイピングを行うようになってきた背景としては、製造にかかるコストと時間のハードルが大幅に下がったためで、もう少し細かく言えば、ラズパイのような格安マイコンボード、3Dプリンタ普及、DesignSparkのような無料CADの出現、そしてRSのような部品通販の存在もあるのだろう。

かくして、新商品企画のプロセスは以下のように変化してきています。

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(補足:「プロトタイピング」を「試作」と同じものとして捉えることもできますが、「商品企画前に行うのがプロトタイピング」で「実設計上で行うものが試作」と、あえて別物と捉えるべきだと私は考えています。)

実は、AppleやGoogleと言った革新的な製品を開発する企業ではこういったプロトタイプ開発プロセスに力を入れている。実設計部隊とは別に、プロトタイピング専用の人員が組織され、潤沢な予算を確保されていたりする。

こういった大企業では、この考えをさらに推し進めている。商品企画前に何十パターンものプロトタイプを作成しユーザ評価を行うことで、ユーザニーズの本質理解を助けると同時にヒット精度の高い商品コンセプトを作り上げることができる。また常識外れで挑戦的な新製品アイデアであっても、プロトタイプがあれば、経営層、投資家、パートナーへの新商品プレゼンに説得力を持たせることができる。プロトタイピングプロセスを新商品の発想手段や起爆手段としても活用している。もはやプロトタイピングの品質がイノベーションのキーと言っても言い過ぎではない。

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前途のような企業では、プロトタイピングを効率的に行うための環境づくりに力を入れている。製品価値の向上のためにはプロトタイプの数を増やす必要があるが、経営資源には限りがある。そこでプロトタイピングの時短を重要経営指針として管理するようになってきた。これによってプロトタイプを高速に行う「ラピッド プロトタイピング」が重要になってきた。つい最近、リーマンショック以降のことである。

(注意: かつて機械設計業界では「ラピッドプロトタイピング」という用語は、積層造形(3Dプリンティング)の意味で使われていたが、2000年代後半頃から上述の意味合いで使われることが増えてきた)

このような背景もあって、実は海外製造業では「ラピッドプロトタイピング」は、かなり前からトレンドキーワードだった。しかしなぜか日本の特に大手製造業ではその考え方がきちんと理解されないままな状態が数年も続いていた。商品企画前のプロトタイピングを行う企業は非常に少なく、実施したとしても低予算でエンジニアがボランティアでやっているような状態だった。プロトタイピングを、本設計より数段劣る低次元なものと考える風潮もあった。

そんな中、まずスタートアップベンチャーにラピッドプロトタイピングの概念が普及した。そして彼らの資金集めの手段として、クラウドファンディングでアピールするための「高速にプロトタイピングを行いたい」というニーズが高まった。ここのニーズにラズベリーパイがドンピシャとはまったのだ。ラズパイはIT技術を軸足に、電子設計やメカトロ設計への拡張性に富み、WiFiやBluethoothを始めとする通信面での拡張性もある。なにより世界中に膨大なユーザと活用ノウハウ、先行事例がある。ラズパイを活用することでラピッドプロトタイピングが容易になり、商品企画のヒット精度が向上するに至ったのだ。

ラズパイだから成し遂げることができた

ラズパイが成し遂げていること、それは ウォーターフォールプロセスからアジャイルプロセスへ変革したSI業界での衝撃と同質のものを製造業にもたらそうとしている。つまりラズパイの存在とはプロセス変革という点で非常に優れているのである。

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「より速い」「より安い」「より小さい」そういった類似競合品も多数出てきた。しかし、新しい商品やサービスのアイデアを具現化したい時に、ラズパイ以上に「速くできる」プラットフォームがあるだろうか?この速さがラズパイの価値の本質なのかなと、ラズパイコンテストの審査をしていて感じた。

RSコンポーネンツ Innovation(Japan) マネージャー。ラズパイの成長をリリース前よりサポートしてきました。 (なおDESIGN SPARKに投稿した内容は個人の見解です。RSを代表する物でないことをご了承ください。)
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