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産業現場における機器間コミュニケーションの問題と民生・産業製品の落とし穴

グラウンドループに関する詳細な記事はインターネット上で大量に見つけることができます。この記事ではグランドループに関する一般的な紹介はせずその代わりに、2つの具体的な”現場”での問題に焦点を当てます。工場の製造ラインなどの現場のファクトリーオートメーションにおけるデジタル通信回線(いわゆる「フィールドバス」)と、そのような環境でUSBを使用することの落とし穴について解説・考察します。

フィールドバス

産業自動化(製造自動化)で使用される多くの有線シリアルバスは、EIA 485またはEthernetの規格に基づいています。Ethernetの物理層には統合ガルバニック絶縁(いわゆる「磁気」)が組み込まれており、信号電位はグランドレベルに依存せず最大で数kVまで対応可能です。今回はもう一方のEIA 485ベースのフィールドバスに焦点を当てます。具体的にはModbus RTUProfibus DPBitbus(IEEE 1118)DMX(ステージ技術)などです。

グラウンドレベル依存

多くのエンジニアはEIA485が「差動」バスであることを認識し、それがグラウンドレベルに依存しないと思っています。しかし、一般的な物理レベルのインターフェース(バストランシーバ)を見れば、この認識が間違いであることが分かります。

ground loop circuit

今、上の図では論理レベルをA(-)端子とB(+)端子の電圧差を定義しています。しかし、ドライバ(Driver)とレシーバ(Receiver)の両方がAとBの電圧が、それぞれのローカルGND電位を参照しています。ここでAとBの電圧の平均値をコモンモード電圧(同相電圧:VCMと呼んでいます。EIA 485の定義では、コモンモード電圧は-7Vから12Vに制限されています。つまり、グランドレベルに依存しているのです。例えばドライバ回路がそのローカルGNDを参照し、この電位がレシーバ回路のGND電位から30V離れていることを想像してみてください。そのような場合、回路は正常に動作しません。

そのため、ガルバニック絶縁を行っていない場合にはドライバとレシーバ回路には同じGND電位が必要になります。このゴールに対する一つのアプローチ方法として、ドライバのGND電位とレシーバのGNDを接続する第3のライン(コモンライン)を接続します。

ground loop circuit

Profibus DPではこの方法で対応しており、他の技術(DMX、Modbus RTU)では追加のGND(コモン)接続の使用を強く推奨しています。ですが、実務経験の豊富な多くのエンジニア達はEIA 485ラインのGND接続を好みません。代わりに、ケーブルシールドの一端でGND接続を切断することで、伝送品質の低下の問題が解決できることが良くあると言います。

謎の第3の配線をめぐる論争

では、なぜ上記のような理論と”現場”で差が出るのでしょうか?その答えが「グラウンドループ」というものです。

ground loop circuit

それでは例に戻って考えてみましょう。今、上図の2つのGNDレベルの間には12Vの電位差があります。EIA 485レシーバはこの12Vのコモンモード電圧をかろうじて許容し、エラーのない信号を送出します。ここではケーブルのシールドを使って2つのGNDを接続しています。これにより、シールドに大電流が流れる可能性があります。つまりシールドはグラウンドループの一部なのです。もし、12VのGNDの差がAC過渡状態(典型的な産業現場の状況)であれば、大きなEMIトラブルが発生します。この際シールドはA、B信号ラインの完全な容量結合装置として働きます。そしてコモンモード電圧が0Vに近いレベルに強制され、信号ライン上では±2Vの信号レベルよりもはるかに高い制御不能なアンバランスなEMI信号となります。

EIA 485では、各デバイスの信号GNDとアース電位の間に100Ωの抵抗を追加することでシールド電流を下げることを提案しています。ほとんどのコモンモード電圧はこの抵抗器により下げることができます。

ground loop circuit

機能接地:等価な参照電位を実現する魔法の杖

Profibus DPはシールド電流を最小にするため、各機器に低インピーダンス接地を追加することを明示的に要求しています。高品質な産業用デバイスは、常に一点接地用の“機能接地”(FE)コネクタを追加しています(ネジ止めの場合もあります)。その内部(信号)GNDパスは、高周波(HF)フィルタリングや他の保護要素によって、この機能接地から分離されています。これは、主に高エネルギーEMI(サージ、バースト)から内部信号GNDと電源電圧を遠ざけるためのものです。EMI信号の電流ループは電源ラインを通り、デバイスの通過がブロックされてFEライン上の保護部品を通り強制的に戻されます。このようなデバイスと正しいFE結合GND電位があれば、低インピーダンス”コモン”ライン(信号GNDレベル)を確立しても問題の発生は少なくなります。

 ground loop circuit

バスパワー機器:プロセスオートメーションのためのソリューション

Profibus PAとFoundation Fieldbus (FF H1)はグラウンドループを回避するための方法です。これらのソリューションの目的は、プロセスオートメーション環境において遠隔地のフィールド機器(バルブやセンサーなど)を制御システムに接続することです。制御システムは、2つの異なる差動バス配線を使用し、リモートデバイスへの電力供給を行います。これにより、リモートデバイスの信号GNDがFEまたはPEに接続されていない限り、両端のGND電位が等しくなります。これらのバスの場合では、常にシールドをリモート側で未接続にして制御システム側でFEに接続する必要があります。このような構成を用いることで、数キロメートルのデジタル信号伝送を安全に行うことができます。

ground loop circuit

ガルバニック絶縁:すべての状況に対応する最善の選択

もちろん、グラウンドループを回避する方法としてバス線とバス情報を送受信する電子回路を、ガルバニック絶縁(絶縁分離)することが一番です。そのようなシステムでは常にバス信号(光結合、容量結合、磁気結合)の絶縁と、信号線ドライバ用の絶縁電源が必要となります。バスのFEやPE接続がないため、コモンモード電圧がないと考える人がいるかもしれません。しかし、ドライバはアイドル状態(高インピーダンス状態)に切り替わることがあり、レシーバのインピーダンスも非常に高くなります。もちろんEMIは、わずかな浮遊容量でさえも数ボルトのコモンモード電圧の負荷をかけることがあります。ですので、バスをどこかに浮かせたままにせず、第3の線を追加して両端を同じ内部信号GNDに繋げておくことが賢明です。平衡化した電流は小さいので、この目的のためにシールドを使用しても大丈夫です。しかし、ガルバニック絶縁では、分離の両側のオフセット電位を処理しなければならないことに注意する必要があります(デバイスの非絶縁部分はその信号GNDがFE/PEに接続されています)。

Maxim 2116 reference design

 Maxim社のアプリケーション2116からのリファレンスデザイン典型例  (189-9578)

産業用オートメーションにおけるUSB

EU指令2004/108/ECでは、「電磁両立性とは、ある機器がその特定の電磁環境において許容内で機能するための能力」と定義しています。これには、EMI放射の制限と併せて既存のEMIに対する感受性が含まれます。この指令では特定の制限については定義されておらず、その設定する制限などを規制するための個別の規範的ルールについて言及しています。EN 61000-6はそのような規範に該当します。EN 61000-6は、特定環境(産業環境についてはパート2と4、民生製品はパート1と3)でのEMI放出と感受性の制限を定義しています。

民生品の要求が低放出に重点を置いているのに対し、産業環境での要求は高EMI感受性を重視している

これは一般的な消費者向け技術を産業環境で使用する際に問題が発生することを示しています。USBを産業用オートメーション機器に組み込んだことのあるエンジニアは、私が言っている問題が何かわかるでしょう。USBケーブル長が要求されるEMI感受性を達成するために、適合宣言で小さな値に制限されることがよくあります。この策略により、一般的なUSBコンポーネントでは不合格となることが多い「伝導妨害波」のEMC試験を省略することができます。

隠された短絡

USBの大きな問題の一つは、多くのUSB機器の電力及びUSBホストから供給されるシールドにどのように対処するかという事です。先に述べたように、一般的な産業用コントローラでは、ケーブルシールド(通常はFEに接続)とVバス(5V)GND電位を区別できます。後者は、差動USBバス信号の参照電位として定義されています。しかし、メモリースティックやWiFi/Bluetoothトランシーバなどの、多くの民生用USB機器ではこの区別がなされていません。その代わり、シールドをVバスのGNDラインに接続しています。私がRevolution Piコントローラを構築したとき、この問題には気づきませんでした。私は産業界のコンプライアンステストに耐えられるように、電源の電子回路を強化させていました。24V、GND、FE配線の範囲外接続や逆接続は、要求されるすべての動作状況において問題ありませんでした。これらの試験はUSBポートにUSBワイヤレスドングルやメモリースティックを挿入しない状態で行われました。しかしその後、FEと+24Vの入力端子を間違えて接続し、RevPiを焼いてしまったお客様から機器の返品がありました。機器を詳しく調査すると、いずれもUSB機器が挿入されていたことが判明しました。つまり、USB機器により問題が発生したのです:

USB GND Potential

schematic for Revolution Pi

唯一のオープンソースである産業用コントローラ Revolution Pi の典型的な回路図  (182-5570)

このUSBデバイスがFEと内部のRevPiのGNDを短絡させたのです。これにより、グラウンドループが確立されました。+24VとFEを入れ替えることで、外部GNDと内部GNDの間に24Vの電位差が生じてしまいました。また、内部GNDと外部GNDを分離する保護部品に過大な電流が流れて煙が発生し、コモンモードチョークの働きをかき消してしまいました。

ユーザーが24VとFEを間違えて接続しなかったとしても、USBデバイスが接続されることでデバイスのいくつかの保護素子が短絡してしまう恐れがあります。さらに、USBシールドと内部GNDが直接接続されているため、あらゆるEMIが内部GND電位を汚染してしまいます。

前述したようなUSBシールドとFEの間に抵抗を挿入しても効果はないでしょう。しかし、電源の接続の乱れによる大電流のリスクを除外することはできます。これにより内部GNDからのEMIを防げます。

一方でガルバニック絶縁されたDC-DC電源部(外部24V→内部電圧)を使用することは、ほとんどのEMC問題を解消するための優れたアイデアのように思えます。しかし、内部GNDを任意の外部ケーブルや機器にさらすことは、常に内部信号GND電位の完全性を脅かすことになります。

この問題を抜け出すための唯一の解決策は、USBホストコネクタ用にガルバニック絶縁されたVバスを用意することであり、コスト上昇と作業量も多くなってしまいます。そのようなDC-DCデバイスは、1ポートにつき少なくとも2.5W(USB3ではさらに大きい電力)を供給する必要があります。しかし、それはもう一つのUSB信号の基準となる別のGND電位を提供し、VバスのGNDとして使用されます。よって、Vバスで駆動するデバイスを接続した場合、シールドとVバスGNDを短絡させても信号整合性への影響は少なく、USBホストの電子機器への影響もありません。下図に示すのが、紹介した解決策の一例のAnalog Devicesの統合ソリューションであるLTM2884  (760-3312) です:

Analog Devices LTM2884

画像引用元:LMT2884の製品資料

スウォーム・エクスペリエンス

今回紹介した例で、”理論と現場”の違いや産業用通信におけるグラウンドループの複雑さを示すことができたと思います。結局のところ、私たちの設計は全て認証試験(コンプライアンステスト)に合格しなければなりませんし、お客様独自の環境で機能が実行されるようにフィールド試験にも合格しなければなりません。このため、完璧なグラウンドコンセプトは理論を重要としながらも、それ以上に経験というものが不可欠になってくるのです。

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Volker de Haas started electronics and computing with a KIM1 and machine language in the 70s. Then FORTRAN, PASCAL, BASIC, C, MUMPS. Developed complex digital circuits and analogue electronics for neuroscience labs (and his MD grade). Later: database engineering, C++, C#, industrial hard- and software developer (transport, automotive, automation). Designed and constructed the open-source PLC / IPC "Revolution Pi". Now offering advanced development and exceptional exhibits.