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Raspberry Pi産業用電源PSUPCBの組み立てとテスト
今回はMaxim EE-Sim OASISでRaspberry PiのSMPS電源を作るパート3です。まだ今までのパート1,パート2を見ていない方は先にそちらを見てくださいね!では今回はとうとう基板を完成させます!そして本当にシミュレーション通りに動作しているのかも徹底解析します!
振り返り
おさらいとしてパート1ではオンラインのMaxim EE-Sim DC-DC Converter Toolを使用してスイッチングコントローラMAX17576 (200-3854) を中心とした回路図の作成を紹介し、その後パート2ではプリント基板製造のためのファイル(デザインファイル)も完成させました。またEurocircuits社はリーズナブルな価格で高品質なプリント基板を製造しており納期も早いので今回はEurocircuits社を利用する事にしました。
プリント基板の注文
前回の記事でガーバーファイルを作成しましたが次にプリント基板メーカーのウェブサイトにアップロードするためにこれらのファイルをZIPにしてサイトにドロップする必要があります。Eurocircuits社のサイトではファイルをドラッグ&ドロップするだけで一連の選択肢が表示されます。今回はプリント基板を社内で組み立てるのでアセンブリデータのアップロードを省略し「PCBConfigurator(コンフィギュレータ)」からはじめました。
PCBConfiguratorはボードの美しいレンダリングを行い、DesignSpark PCBから生成されたアウトラインレイヤに基づいて基板の寸法を自動的に入力します(上図)。スクロールダウンして上下のステンシル(クリームはんだを塗るための型)の組み合わせを選ぶことでステンシルもプリント基板と一緒に注文することができます。今回の組み立てではトップステンシルを注文しデフォルトのステンシルオプションはそのままにしておきました。
またプリント基板の画像をクリックすることでガーバーファイルのレンダリングを提供する組み込みのPCBビューア(プリント基板デザインビューア)があります。これはアップロードされたガーバーファイルが正しく処理されたかどうかを確認するのに便利でプリント基板に必要な部品がすべてあるかどうかを最後に確認できます。
この後は注文した商品をバケットに入れプリント基板の注文にチェックアウトして到着を待つだけです。
コンポーネントを注文するためにはDesignSpark PCBから部品表(BoM)を作成する必要があります。これは「Tools」メニューから「Reports」を選択し「rsbom」レポートオプションを選択することで簡単に行うことができます。
完了するとプロジェクト名と(rsbom)を含むCSVファイルがプロジェクトファイルと同じフォルダーの場所に生成されます(下図がCSVの中身の例)。
これでBoM(部品表)からすべてのコンポーネントが注文されボードに装着できるようになります。
基板の完成へ
部品、プリント基板、ステンシルがすべて揃ったところでいよいよ基板の組み立てです。はんだペーストステンシル用の治具を用意していますのでステンシルを保持したりプリント基板に合わせるのが簡単にできました。
はんだペーストをスキージブレードで塗布した後ステンシルを剥がすとプリント基板に部品を配置する準備が整いました!この作業はとても細かい作業なので安定した技術が必要です!
その後、部品を仮止めしたプリント基板はリフロー炉(オーブン)を通過します。しかしただリフロー炉に通すだけでは完成しません。なぜならリフロープロファイルはちょっとした芸術作品的なものでありプロセスには注意深い監視や調整が必要です。そのためまずはソルダーペーストのメーカーが提供するリフロープロファイルを参考に操作します。ここではChip-Quik (146-6192) を使用しそれに合ったリフロープロファイルをオーブンに入力しました。最初に通過した(温めた)基板は少しオーバーヒートしているように見えたのでプロファイルはそれに合わせて調整しました。
試行錯誤しながらの作業になるのでリフロープロファイルの設定のために予備の基板をいくつか用意しておくとよいでしょう。今回は銅の分布が似ているテスト基板をリフローしそれに基づいてプロセスを調整しました。
最後にすべてのスルーホール部品をPCBにはんだ付けします。これはポリヒューズ、入力コネクター、Piに接続するための出力ヘッダー、およびLEDインジケータです。
これでデザインしたSMPS電源の基板は完成です!!
テスト
基板が完成したのでこれからこの基板が本当にシミュレーション通りの物であるかを評価していきます!
テストの準備
Raspberry Piの産業用電源をテストするために可変式の電流制限付きベンチ電源「RS Pro RS-3005D」 (175-7368) と電子負荷「RS Pro RS-KEL103」 (180-8788) 、そして出力品質を検査するためのオシロスコープを準備しました。電子負荷はコンピュータに接続されておりステップ負荷の変化を簡単に設定できるので出力の安定性を柔軟に観察することができます。
テスト
組み立てが完了したらいよいよボードを立ち上げてテストを行います!最初のステップは電源入力とグランド入力の間の導通をチェックしボードに電源を入れる前に不必要な短絡がないかをチェックします。
導通テストで短絡がなければ次は電源を投入して「スモークテスト」を行います。DC12V、100mAの電流をかけて異臭がしないか物が熱くなっていないか煙が出てないかを観察しましたがいずれも問題ありませんでした。また基板上の2つのインジケータLEDが点灯していました。1つはヒューズ後の入力に接続されているもので、もう1つはMAX17576からの「PGOOD」出力を知らせるものでこの2つのLEDにより出力が有効である事を示しています。
次のテストは出力電圧のチェックです。出力電圧がパート1で指定した範囲内にある事を確認します、USB電源電圧の許容範囲がDC4.75~5.25VであることからDC5.1Vの出力を提供するようにコンバータを設計しました。結果は下のスクリーンショットにある通りで電子負荷からの電圧表示で4.75~5.25Vの範囲に収まっていることが確認できると思います。
出力が範囲内である事がわかったので次に電流のリップル(リップル含有率)をチェックします。出力電圧のリップルが2%になるように設定しているのでリップル電圧は0.1Vになります。これを測定するためにはオシロスコープを出力に接続しカップリングをACに設定します。これにより入力のDC成分が除去されリップルと過渡現象のみが表示されます。そしてリップルを表示するために適切な垂直スケールを設定し、波形にピーク・トゥ・ピークの測定項目を加えます。設定後、確認してみると約40mVのリップル数値が得られました(下図)。
また出力のステップ負荷テストを行いオーバーシュートとアンダーシュートをチェックします。パート2でも述べたようにはオーバー・アンダーシュートの最大割合を2%に設定しました。つまりステップ負荷の変化時において出力電圧が0.1V以上オーバーシュート、アンダーシュートしないはずです。これを確認するために電子負荷ソフトウェアに2段階のプログラムを入力しました。
さらにオシロスコープには現在表示されているトレースの最大値と最小値を測定するため、最大値と最小値という2つの測定項目を追加しました。そして電子負荷のテストプログラムを起動し、オシロスコープの波形を観察しました(下図)。
オーバーシュートとアンダーシュートが0.1Vの制限内にあり、最大オーバーシュートが56mV、最大アンダーシュートが43mVであることがわかります。これは上記の通り、設計範囲内だとわかります。
下のビデオは今までの一連の工程を一部省略しながら説明、測定しています。ぜひ参考にしてみてください!
まとめ
このシリーズはMaxim EE-Sim OASISを使用してRaspberry Piへの給電に適したスイッチモード電源の設計とシミュレーション適切なPCBの設計、完成したPSUの組み立てとテストを行ってきました、今回でこのシリーズは終了です。いかがだったでしょうか?そこまで簡単な作業とは言えませんが興味を持ちこれからさらに電子設計を上達させたい方にとってはとても良いインスピレーションを与えることができる記事であったと思います。今回作成したSMPS電源はRaspberry Pi専用でしたが他のSBC(シングルボードコンピュータ)などにも応用すれば実装できます、ぜひ試してみてください!
回路図とPCBレイアウトはRaspberry Pi Industrial PSUのGitHubリポジトリからダウンロードできるほか部品表も用意されています。
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