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AR・VR ~没入型デバイスが保守・メンテナンスの形を変える~

現代の工学は目まぐるしく発展しています。しかしベースとなる生活基盤は既存技術で構成されたインフラの上に成り立ってます。そして重要度の面でいえば、それら既存技術の保守・メンテナンスは非常な工学分野であると言えます。

industrial maintenance

塵や水分、摩擦、回転、ノイズ(あるいはこれらの要素すべての組み合わせ)がある設備の周辺には、常に修理に関するメンテナンスマニュアルが置いてあります。

現代では工場や産業において、どれだけ連続稼働できるかが費用対効果目標を達成するための重要なポイントと言えます。その点で、システムの保守・メンテナンスは必要不可欠といえます。特に稼働時間は、原料の量や品質とともに重要な指標のひとつでしょう。そして、最適な稼働時間を維持するためには、定期的なメンテナンスを素早く積極的に行い、システムが稼働し続けられるようにする必要があります。

財務責任者やその株主をなだめるため、というのはもちろんですが、このメンテナンスの分野には、持続可能性のためのきわめて重要な役割があります。十分に油をさした機械が最適なパラメータで動いていると、使用するエネルギーを削減でき、原材料をほとんど無駄にすることがなく、騒音や排出ガスを抑えることができます。メンテナンスが行き届いた機械や装置は長持ちし、そのため廃棄物も少なくなるといったところです。

より効果的なメンテナンス

ありがたいことに、新たなパラダイムであるIndustry 4.0において、メンテナンス分野が無くなることはありませんでした。事実、メンテナンスは、あらゆる場所のデジタルトランスフォーメーションを支えているものと同様の運用データを利用することが可能なため、一段と効果的な分野です。

Industry 4.0はジャストインタイム的に訪れました。世界的に工業、工学においては、ベテラン技術者が退職することで、技術者とともに多くの知識も失われます。この技術者たちは、ハードウェアと感覚的な親密さを持った関係を築き、視覚、嗅覚、触覚、聴覚を使って故障を予測し理解していました。ただ、結局のところこれは長年の経験の賜物だったために、この感覚によるハードとの関係を若手に継承していくことは難しいものでした。

ありがたいことに、現役を引退していく技術の達人達の代わりに入ってきた現代の技術者はよりデジタルに精通しており、小型な画面で、非常に大量のデータをどんどん処理させることができるため、理屈上は前任者よりも特に生産性の面で良い仕事ができるでしょう。

また、彼らには頼もしい支援者の存在があります。直属の上司ではなく、5,000マイルも離れたドイツのライプツィヒにある、機械製造業者工場の技術専門家からバーチャルなサポートを受けることが可能なのです。それもこれも、データやコネクティビティ、さらには今では単なる「ノーマル」として定着した「ニューノーマル」のおかげです。

急速な採用

パンデミックを肯定的に解釈するのは難しいことですが、パンデミックによって、以前は現代工学の道にノロノロと少しずつしか乗ることができていなかった技術やデジタルツールの配備が加速されました。これらの新たなデジタルツールが、中期的な「あったら良いな」から短期的な「ないと困る」へと急速に変化しました。そして嬉しいことに、これらを配備するための基盤が、すでに現代の操業の中に十分定着していたのです。

モノのインターネット (IoT)、Industry 4.0、5G、新しいイーサネット標準、ブロードバンドの普及、ウェアラブル技術や没入型(イマーシブ)技術の進歩など、あらゆる種類の工学分野の開拓に向けて、デジタルの遊び場が整備されました。しかしこれは、パンデミックという事態によってはじめて、十分な数の人々に届くようになったのです。バーチャル、イマーシブ技術をまだ体験していない人がいるのであれば、保守派の古い人々だと言えるでしょう。

第三者が専用のVPNによって、サーボプログラムの再設定、ドライブパラメータの変更、センサからの障害コードの診断などを、リモートソフトウェアで行えるような機能が数年前から利用可能です。アフターサービスパッケージや、サービスとしてのメンテナンス (MaaS: Maintenance as a Service)の一部として販売されることが多く、遠隔でのダイヤルインが一般的でしたが、これは実際のところ、ソフトウェアやコードに関するトラブルシューティングと問い合わせ程度にしか適していませんでした。

バーチャルでより効果的に

機械システムにおいては、課題が全く異なるものでした。修理マニュアルを読みつくしたとしたら、次の選択肢は電話か、ビデオチャットか、メールで数枚の写真を送信するかして、次に現場訪問をするというように、どの方法でも貴重な時間や労力、費用を要し、ダウンタイムが延長されるのは言うまでもありません。こういったことから、より現場に近い物理的な領域では、遠隔でやり取りするためのバーチャルな方法が実を結ぶことになるでしょう。

virtual support industrial maintenance

パンデミックが発生した頃には、新しい機械が顧客の現場に届いたり、製造ラインが閉鎖されたりしたためパニックに陥ることがあり、さらにそれを解決できる人が誰もいませんでした。しかし、技術者が関与する場合においては良くあることですが、すぐに素早い行動がとられました。イタリアの機械製造業者がどのようにしてiPadsとウェブカメラを用いた工場受入テスト (FAT: Factory Acceptance Test)を受けたか、風力発電がどのようにして4G接続と携帯電話のカメラによって再稼働にこぎつけたかなどの体験談が、技術系の新聞社に集まり始めました。

あっという間にiPadはいくつかのマルチアングル4Kカメラと照明器具で置き換えられ、会議ソフトウェアであるZoomは、注釈をつけることができる可視化ソフトウェアによって座を奪われ、途切れることのない音声や映像、データチャットを顧客に提供するために、専用の接続回線がサプライヤーによって確立されました。

最初に判明したメリットのひとつとして、コストに関することが挙げられます。むしろ、コストがかからないといったことでした。3名の技術者を3日間、飛行機運賃を払って、3000マイル離れた1つの現場に派遣するには、多くのコストがかかります。しかし、同様の3名の技術者が自らのデスクで、映像と没入型技術を用いて行った場合にかかるコストは、元の支出の数分の1程度で済みます。それなら一体なぜ「以前の方法」に戻る必要があるのでしょうか。

対面での対応は確かに効果的ですが、負担が少ないバーチャルな取り組みの方が単純で、より理にかなっています。そしてこの没入型技術を使ったリモートでのインタラクティビティは技術案件だけに限らず、プロジェクトタイムライン全体に対して展開でき、時間やコスト、労力の大きな節約につながります。

いつでも使える技術

では、本当に効果的なリモート機能を利用したい場合、どういったものが活用できるのでしょうか。単純なダイヤルインについてはすでに議論しましたが、これを実際に超えるようなものです。現代の製造業界に飛び交っている、情報処理能力を持った部品やスマート機器からの過剰なほど膨大なデータを使用することで、OEMとその顧客の両方がリアルタイムで、または履歴的に遡るかたちで検証し、運用可能な部分を問い合わせることが可能で、さらに、即座にライン側の決定を行うことが可能です。これをさらに進めていくと、間違いなくIndustry 4.0の最終目標になります。

しかし、目を疑うものもあり、仮想現実(VR: Virtual Reality)と、最近登場し始めた拡張現実 (AR: Augmented Reality) といった没入型技術によるアプローチです。

VRは登場してからしばらく時間が経っており、トレードショーで常に高い人気はあったものの、ここでは娯楽向けではない新案品でした。しかし、ゴーグルベースのVRは間違いなく設計事務所でのフライスルー(fly-through)や問い合わせにより適しており、この空間はあなたに害が及ぶ可能性のある機械だらけの場所ではありません。これが、ARによる複合現実(mixed reality)の本領を発揮する場面になります。

現実にコンピュータが生成した図を重ねることで、ライン側の技術者やオペレータは驚くべき数の知見や機能、知識を追加で扱うことが可能になります。メンテナンスのためだけではなく、トレーニング、生産の切り替え、設計の改善にも利用できます。ここ30年間に構築された技術の大半と同じように、この技術はCADデータに支えられているため、古い機械がこの新たなデジタルでの手法から排除されているわけではありません。

機械の製造業者は、機械の稼働データによって駆動されるような予備の運転操作を実証しました。警告が発せられると、技術者にその対象となる部品や、それが機械のどこで使われているのか、その部品の点検・修理間隔などを、スペア部品を扱う業者に連絡するボタンを表示する前に提示します。

こういった技術は、ライン側だけでしか使われないわけではありません。ARでの拡張モデルを使うとあなたのデスク上で仮想的に機器を配置することができるため、運転上の問題を議論したり、レイアウトを微調整したりすることが可能になります。また、CADデータを用いることで、モジュールをおもちゃの積み木と同じような簡単な操作感で交換し、機械の運転設定を行うことができます。ここまで述べてきたユースケースは表面的に論じた程度で、もっと深い可能性を秘めています。

没入型技術の時代が来る

この没入型技術は、単なるその場しのぎの策ではありません。先ほども述べましたが、必要に迫られたことで生まれたニューノーマルは、今では単なる「ノーマル」になりました。驚くほど短い期間の中で、多くの場面で対面の方式と置き換わった今の遠隔方式の方が、はるかに効果的だということを実証しました。百聞は一見にしかずというのなら、拡張ディスプレイは百通りの可能性を見せてくれるでしょう。

遠隔でのサポート、そして没入型技術は、今後のメンテナンス工学界を支配していくでしょう。これらはパンデミック中に、絶対に欠かせないものであることを証明しました。技術が進化するにつれ、ハードウェアのコストパフォーマンスが向上し、仮想世界はより多くの分野を取り込むために成長し、拡張現実を用いたソリューションはじきにスマートフォンやタブレットと同じくらいどこにでもある存在になり、さらにはスマートフォンやタブレット上でどんどん成長していくことでしょう。

Favourite things are Family, Music and Judo. Also, I have the ability to retain and quote useless facts, something that pleases me but can annoy others. My engineering hero - Isambard Kingdom Brunel