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ポーランド国立核研究センターとアメリカMITの共同プロジェクトに「CosmicWatch」というものがあります。このプロジェクトは、宇宙線が地球の大気に衝突して発生するミュー粒子(muon、以下ではミューオンとする)の検出器を、比較的簡単に低コストで作ることを目的としています。
CosmicWatchデスクトップミューオン検出器の自作について
今回の記事では、ミューオン検出器「CosmicWatch」の製作に挑戦する複数回のシリーズ記事になっています。
プライマリーとセカンダリー
一次宇宙線と二次宇宙線 出典: CERN
一次宇宙線(プライマリー)は高エネルギーの陽子と原子核で光速に近い速度で宇宙空間を飛び回っており、そのかなりの部分が星の超新星爆発に由来することが示唆されています。これらが地球の大気に衝突するとミューオンなどの二次粒子(セカンダリー)が発生し地球に降り注いできます。
ミューオンは電子に似た素粒子(他の粒子で構成されていない粒子)ですが質量は電子の約207倍と非常に大きくなっています。その質量により電磁場では電子よりもゆっくりと加速するため、一定以上のエネルギーであれば物質の中に深く入り込むことができます。
ここで私たちが興味を持っているのは、まさにこのミューオンや二次宇宙線です。なぜミューオンは大気を透過して陸地に到達し、さらには深部の鉱山までに到着することができるのでしょうか。探っていきましょう。
ミューオンの検出
粒子検出器というとまず思い浮かぶのがガイガーカウンターです。これは不活性ガスを充填した管に高電圧をかけ、粒子が管に入ることで発生するイオン化現象をカウントするものです。これにはいくつかの制限がありますが、特に顕著なのは入射する放射線の種類やエネルギーにかかわらず、出力される信号が常に同じ大きさであるという事です。
発光(シンチレーション)物質
そこでシンチレーション検出器を使用する事を考えます。シンチレーション検出器は放射線が入射するとシンチレーターが光を発し、その光を光検出器で観測するというものです。シンチレーション検出器は、使用するシンチレーション素材を選択することで特定の放射線に反応するように構築できるなど、ガイガーカウンターに比べて多くの利点があります。加えてシンチレーション検出器はより高速・高感度で放射線のエネルギーと強度を測定する事ができます。
年代物の光電子増倍管ベースのシンチレーション検出器
従来、このタイプの検出器はシンチレーター材料から発生する光を測定するために光電子増倍管(PMT)を使用していました。PMTはその表面に当たった1個の光子でさえも検出できるほど非常に高感度です。
光電子増倍管
しかし、PMTは高価であり高電圧の電源を使用しなければならないといデメリットがあります。
SiPMデバイス
幸い、近年シリコン光電子増倍管(SiPM)が登場しました。SiPMはPMTと同様に単一光子に感度を持つ、よりコンパクトで便利な半導体です。CosmicWatchでは、オンセミのC-Series SiPMセンサー (185-9609) を使用しています。上の写真は保護パッケージに入った状態です。
主要コンポーネント
上の写真では、シンチレーターとSiPMセンサー、そして両者のインターフェースに使用されるシリコン製の光結合剤の小さなタブが写っています。シンチレーターとシリコン化合物は、どちらもeBayの業者から入手しました。この業者はCosmicWatch検出器の製作者向けに材料をサイズに合わせてカットしたり、少量の化合物を提供してくれていました。
さて、検出器の物理的な部品はそろいましたが、他に何が必要でしょうか?答えは筐体(ケース)です。CosmicWatchの設計では、特定の米国メーカーの筐体を使用することになっていますが、残念ながら英国では入手できませんでした。その代わりにRS Proの筐体 (195-1545) を使用しました。似たような設計ですが少し大きめなので、レーザーカットでマウントプレートを切断し、これにメイン基板を固定しました。プレートをケースの基板ガイドにスライドさせ挿入しました。
メイン基板の他にSiPMセンサーとシンチレーター用の基板、マイクロSDカードソケット用の小さな基板を用意しました。このセンサーアセンブリは周囲の光を遮断するために反射箔と黒いテープで包み、それからメインボードに取り付ける必要があります。メインボードにはセンサー用の電源、出力用のアンプ(増幅器)とピーク検出器の回路が組み込まれています。
調整済みのSiPMセンサーの信号はArduino Nano (696-1667) のADC入力に入力され、USB経由でコンピュータにデータを送信したり、マイクロSDカードにデータを記録したりすることができます。
さらに、Arduino NanoはI2Cディスプレイに統計情報を出力することもできます。CosmicWatchの設計では一般的な0.96インチ128x64サイズのOLEDを採用しており、正しいピンヘッダー配列の物を入手するように注意する必要がります。またこの種の製品には当たり外れがあり、特にストックフォトしかない場合であると外れを引かないようにしたいので今回は代わりにSeeed Studioのディスプレイ (174-3239) を使ってみる事にしました。少し長めの筐体を使用してるのでメインプリント基板にケーブルを接続する必要があります。
次のステップへ
Part1は以上で終了です。今回で宇宙線検出器がどのように動作するか大まかに理解できました。次の記事では、製作を進めながらこの点をもう少し詳しく調べていきます。また、信号の処理方法や環境放射線と識別する方法についても見ていきます。