あんしんルーム -人感センサーとドア開閉センサーを用いた高齢者向け安全確認アプリ-
1. 背景
近年高齢者の一人暮らしが増えています。高齢者の一人暮らしでは突発的な事故や病気への対応が難しいという問題があります。特に自宅内の死因で最も多いのは溺死であり、お風呂場での事故が多いと考えられます。
そこで、今回はドア開閉センサーと人感センサーを用いてお風呂場内の異常を検知してAndroid端末に通知し、異常発生時に速やかに本人への連絡や救急への通報が可能となるアプリ"あんしんルーム"を開発しました。
2. アプリ概要
本アプリ「あんしんルーム」は”お風呂場内にドアの開閉なく一定時間以上滞在している”という異常を検知し、Android端末に通知することにより遠方に住む家族へ異変を知らせ、迅速かつ正確な通報を可能にすることを目的として設計しました。
異常の検知にはお風呂場のドアの開閉を監視する開閉センサーと脱衣所の人の通過を監視する人感センサーを用いています。これらのセンサーによって異常が検知された場合には、Android端末へ異常が発生したことを通知すると同時に、Raspberry Pi側ではブザーが鳴動します。ブザーは備え付けの物理ボタンで停止可能で、利用者が誤検知と判断した場合にはボタンを押してブザーを止めることで、その情報がAndroid端末にも反映され誤検知であったことが通知されます。また、通知を受けとったAndroid端末では、事前に設定した住所や連絡先等の情報の閲覧と、設定した連絡先への連絡、救急への通報が可能になっており、緊急時には家族が遠方に住んでいる場合でも正確かつ迅速な通報が可能となっています。
3. システム設計
本アプリでは、Raspberry PiとAndroid端末の2つのデバイスを用いて、高齢者の入浴中の異常を検知し、遠隔地にいる家族へ通知を行うシステムを構築しています。システムの全体は下のフローチャートの流れで処理を行います。
本節では以下の2つについて説明します。
- 開閉センサーと人感センサーを用いて異常を検知する仕組み
- Android端末とRaspberry Piの通信の仕組み
3.1. 異常検知アルゴリズム
まず、人感センサーは脱衣所内に、開閉センサーはお風呂場のドアに設置されていることを前提とします。 正常な状況では下図のような流れでセンサーの反応が発生します。
本アプリでは、正常な状況では必ず開閉センサーの反応から一定時間後にどちらかのセンサーの反応があることに着目し、”開閉センサー反応後に一定時間両センサーの反応がない”ことを検知した場合に異常が発生したことを通知します。
開閉センサーが反応するということはお風呂場のドアを開けられる場所(お風呂場内or脱衣所)に人がいるということであり、その後長時間両センサーが反応しないということは、ドアの開閉なしに脱衣所もしくはお風呂場内に長時間滞在していることを意味しています。よって、”開閉センサー反応後に一定時間両センサーの反応がない"ことを検知することで、目的である”お風呂場内にドアの開閉なく一定時間以上滞在している”という異常を検知することができます。この一連の流れをフローチャートにすると以下の図のようになります。
3.2. Android端末とRaspberry Pi間の通信
本アプリではAndroid端末上のアプリで設定した異常と判断する時間をラズパイに共有し、その時間に基づいてラズパイ側で異常が検知された場合と、誤検知であった場合にAndroid端末へ通知するためにラズパイとAndroid端末間で双方向の通信が必要です。
そこでMQTTという通信プロトコルを使用しました。MQTTプロトコルとはIoT向けの軽量通信プロトコルです。通信する端末の間にはブローカー(仲介者)が存在し、メッセージを送信したい端末はトピックを指定してブローカーにメッセージを送信します。メッセージを受信したい端末は、あらかじめトピックをサブスクライブしておくことにより、そのトピックで新たなメッセージがブローカーに送信された際に、ブローカーからメッセージが転送されます。これにより、リアルタイムで双方向の通信が可能となります。
4. アプリの使い方
本節では「あんしんルーム」の使い方を一人暮らしをする高齢者視点と遠方に住む家族視点の二つの視点から説明します。
4.1. 一人暮らしをする高齢者視点
高齢者側では入浴時の異常を検知するために、センサーを適切な場所に設置する必要があります。
- 開閉センサー
- お風呂場のドアの開閉が検知できるように設置します。
- 人感センサー
- 検知漏れがないように脱衣所内で必ず通る場所に設置します。
- ドアを開閉すると同時に人感センサーに検知されないように、ある程度お風呂場のドアから離れた位置を検知するようにしておく必要があります。
センサーを設置するだけで、基本的な準備は完了です。
もし誤検知によってブザーが誤って鳴ってしまった場合には備え付けの物理ボタンを押すことで誤検知であった旨を遠方の家族に通知することができます。
4.2. 遠方に住む家族視点
Android端末側では以下の画像のような画面になります。
まず、ドアの開閉検知後にブザーを鳴らすまでの時間を設定し、その設定をRaspberry Piに共有します。また、高齢者の連絡先、住所、持病などの情報を事前に登録しておくことで、緊急時の対応がスムーズになります。これで基本的な準備は完了です。
Raspberry Piからの情報は、アプリを起動していない状態でもプッシュ通知として受信することができます。異常が検知された場合には対応するボタンを押すことで速やかに高齢者本人への連絡と救急への通報が可能になっています。
5. デモ動画
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